スピード経営で知られるアイリスオーヤマ、問題発生のたびに躍進できたワケ:家電メーカー進化論(3/5 ページ)
アイリスオーヤマは、コロナ禍でもマスク生産拠点をいち早く国内に構えるなど、スピード経営を実践し続ける企業の1つ。アイリスオーヤマ 代表取締役社長 大山晃弘氏に、時代の流れに素早く対応するスピード経営の秘訣と、時勢を見極める製品展開、今後の事業構想について話を聞いた。
被災企業としての復興支援が、事業拡大にもつながる
――家電事業の本格参入は、意図とタイミングがちょうど合致したということですが、結果的に日本の技術者を国外流出させず、国内の技術維持に貢献しています。ところで、アイリスオーヤマは宮城県に本社機能がありますが、11年の東日本大震災の影響はあったのでしょうか。
確かに被害はありましたが、当社工場などの被害は幸い深刻ではありませんでした。震災は金曜日に起きましたが、翌週月曜日には出社できる従業員が出社し、復旧や支援活動をできる限り行いました。
震災後、最初に行ったのがLED照明の増産ですね。当時は電力の供給がどんどん減るという話で、それなら省エネのできるLED照明を作ることが社会貢献になると考えました。確か、震災から1カ月後にLED照明を3倍に増産しています。その結果、法人向けの需要が一気に増えたという意外な副産物もありました。
東日本大震災によって、「良い製品」を作るだけではダメで、社会のニーズを捉えて社会課題を解決することが、メーカーとしての使命だと実感させられました。
――LED照明の増産以外で、変化はありましたか。
宮城の沿岸部の農家も、津波で壊滅的な被害を受けました。そこで当社は、13年からは精米事業にも参入しています。被災地に精米工場を建設して現地の方々を雇用し、さらに東北の玄米を仕入れることで復興をお手伝いしたいということです。被災した農家さんに、もう一度お米を作ってもらうために、地元で製品化することに意味があると考えました。
とはいえ、ただ農家から米を仕入れ、精米して売るだけでは意味がありません。そこで、販売する米の価値を高めるために、「低温精米」という技術で精米しています。米には甘みを出すための酵素があり、熱に弱いという特性を持っています。一般の精米法では摩擦熱が発生し、60〜70℃になるところ、40℃未満の低温で精米することで酵素を壊さず、甘みのある米を届けようという取り組みです。
当社自身が被災していることもあり、我々は復興のためにいろいろな取り組みをしてきました。それらの活動が世に知られたことで、社会での認知度やブランドイメージは高くなったと実感しています。
震災時点では家電メーカーとしての知名度が低かった当社ですが、ちょうど家電メーカー退職者の採用とタイミングが重なったこともあり、「アイリスオーヤマの家電を店頭に並べてみよう」という声が挙がり販売チャンネルも増え、その結果「アイリスオーヤマの家電を使ってみよう」という流れができたと思っています。
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