日本人は、自らブラックな労働環境を望んでいるといえなくもないワケ:働き方の「今」を知る(6/6 ページ)
長く続くコロナ禍。解雇などのニュースを目にすることも多いが、国際的に見ると日本は比較的低めに推移している。ただ、その代わりに失っているものも少なくないと筆者は指摘する。
まず、従業員を解雇しやすくすれば、景気や需要変動にも柔軟に対応することができるし、高給で雇い入れても見込み違いならすぐクビにできるので、雇用の流動性が高まる。結果的に新たな雇用も生まれ、報酬も上がりやすくなるだろう。そうなれば定年制度も当然廃止になる。また終身雇用社会では「残業も転勤も厭わないフルタイム総合職正社員」しかキャリア形成が難しいが、その縛りがなくなれば出産・育児をへた女性の職場復帰も容易となり、女性活躍が進むことは間違いない。そして社会保険料が高すぎるので極力低率にし、その分を消費増税や医療費の高齢者負担割合増で賄えば、現役世代の手取り自体は増えるので経済活動は活発になるはずだ。
とはいえ、残念ながら現在の政治体制が続く限り、実現は困難であろう。人口面でも投票率でも圧倒的に高齢者が多い状況で、このような高齢者により多くの負担を求める政策を進められる可能性は皆無に近い。しかし、そのための原資はわれわれ現役世代の稼ぎに依存していることもまた確か。どこかで折り合いをつけていかねばならないのだ。
客観的に見る限りわれわれは、長時間労働、企業側の一方的な配転、定年延長、社会保険料高騰――といった、働き手にとって不利な条件を押し付けられ続け、先進諸国で賃金一人負けのような状態になろうが、それでも「雇用」だけは死守したいと望んでいるように思える。現状を打開するためには、変革のための苦しみを分かち合う必要があるのかもしれない。まずは解雇の金銭解決が容易になるところからでも、変革が進むことを祈念している。
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