にわかに進む「週休3日制」議論が空虚な“改革ごっこ”に陥りそうだと思うワケ:スローガンには要注意(4/5 ページ)
「週休3日制」の議論が進んでいるが、筆者はスローガン先行の現状に警鐘を鳴らす。真の改革を伴わない“改革ごっこ”に要注意。
「男性育休」については、今国会に育児・介護休業法改正案が出されており、現在も審議されています。法案には、出生後8週間以内に4週間まで育児休業を取得できるようにすることや、本人や配偶者が妊娠・出産の申し出をした場合に会社側が制度周知や休業意向の確認を行うことなどが盛り込まれています。
制度を整えることは重要ですが、「男性育休」自体は今でも取得可能です。しかしながら、厚生労働省が発表した令和元年度雇用均等基本調査によると、19年度の育休取得率は女性83.0%に対し、男性は7.48%。同調査上で確認できる最も古い1996年度の男性育休取得率が0.12%であることを考えると右肩上がりにはなっていますが、非常に低い水準の範囲となっています。
今国会で審議されている改正案は重要ですが、仕組みにだけ目を向けても根本にある性別役割分業意識が変わらない限り、残念ながら劇的に変革することはないと思います。
スローガンは「隠れみの」にもなる
「同一労働同一賃金」「ジョブ型」「男性育休」「週休3日制」――どれも新しいワークスタイル時代の到来を予感させる言葉です。しかし、ここまでのように内容を慎重に確認してみると、現時点においては旧来のシステムを打ち壊すほどのインパクトはなく、それらの流行語に仮面を付け替えることでかえって旧来システムを保持できる隠れみのにすらなりえるものです。
例えば「週休3日制」については、以前「『週休3日』『副業容認』は各社各様 “柔軟な働き方”を手放しで喜べないワケ」でも指摘した通り、運用次第でメリットもデメリットも生じます。ここで筆者が重要だと思うのは、「週休3日制」の是非よりも、「そもそも年次有給休暇を十分取得できていないのはなぜか?」という点です。
労働基準法の通りに運用されていれば、労働者は最大で年間20日の有給休暇が取得できます。さらに、日本には祝日が16日あるため合計すると36日。仮に祝日が全て平日と重なるか振替休日になれば、土日以外に休みを取得して週休3日にできる週が年間36回もある計算です。
理論上は、1年52週のほぼ7割を週休3日にすることが可能なのです。もちろん、現実的にこうした対処はしづらいはずですが、付与された有休すら確実に取得できていない状況の中で「週休3日制」の議論だけ進めても、期待通りの効果が得られるかどうか疑問です。休暇を取得しやすい職場づくりとセットで議論しなければ、意味がないのではないでしょうか。
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