加盟か、独立か? 波乱のスーパー業界、今後は「卸売業」こそがカギを握ると思えるワケ:小売・流通アナリストの視点(2/4 ページ)
コロナ禍で好調のスーパー業界だが、今後は卸売業がその行く先を担うと筆者は主張する。その理由とは
国内食品流通において、食品卸の存在感は大きい。地域ごとに多数の小売企業が分散して存在している、という日本の独特の食品流通構造を支えているのは、食品卸が安定的な商品供給機能を提供しているからだといっても過言ではない。例えば、地方の中小スーパーでも大手メーカーのナショナルブランド製品を、当たり前のように店頭に並べられるのは、食品卸の供給網が国内の隅々まで行き届いているからに他ならない。
しかし、人口減少が進む地方を中心に、食品需要も伸び悩みが続いているため、どうしても供給過剰の取引関係となり、食品卸間のシェア競争も激しくなっている。地方ごとの有力企業がいくつかの勢力に分かれて競争する環境下にあるため、食品卸もシェア拡大のためには成長する有力スーパーの取引を奪い合うことになる。「負け組」についていると、何年か後には自社のシェアを急速に落とすことになるからである。
結果として食品卸は、その重要な機能の割に薄利な商売となってしまっており、大手各社といえども、その利益率は極めて低いというのが現状だ。売上数百億円の有力地場スーパーよりも、数千億円から数兆円規模の大手食品卸の方が収益率では劣っているという不思議な状態にもなっていたのである。
POSだけでは不十分な時代が到来
混乱の中ではあるが、食品卸の経営環境に今後大きな影響を与えるような環境変化も見えてきている。コロナ禍を契機としたデジタルトランスフォーメーション(DX)の潮流がそれだ。
既に小売業界においても、POS(販売時点情報管理)で商品動向を把握することで十分だった時代は終わりつつあり、誰がどんなシチュエーションで買ったのかというビッグデータをベースにしたマーケティングの時代に移行しつつある。最近の小売、流通関連のニュースで取り上げられているキーワードとして、店舗のデジタル化、キャッシュレス化、スマホアプリの推進などを頻繁に目にすると思うが、これらは全て顧客の行動とPOSデータをリンクさせることによって、顧客の購買行動をビッグデータとして蓄積するという方向性に他ならない。
近い将来、ビッグデータの分析に基づいたマーケティングが当たり前になれば、デジタルインフラを備えていない小売業は、品ぞろえ、接客、在庫管理などあらゆる局面で競争力が低下することになる。例えれば、有視界戦が一般的だった時代に、相手がレーダーを装備すれば、一気に勝負がついてしまう。闇夜の鉄砲のごときマスマーケティングは、無力化されてしまうのである。
このような時代には、巨大な流通量(情報量)と資金力を持つ大手小売業の存在感は、急速に拡大することになるだろう。そうなると、中堅中小小売が大手に対抗して生きていくためには、食品卸の情報力と連携して自社にも「レーダー」を導入することが必要となるはずだ。
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