トヨタ豊田章男氏の主張は、我が身可愛さの行動なのか?:高根英幸 「クルマのミライ」(2/4 ページ)
電動化=脱エンジンなのか? それとも、日本の産業構造を一気に変えるようなことができるのだろうか。たしかに今ここで日本の産業構造を変えなければ、かつての半導体の二の舞いになる。そこで自動車産業を日本の基幹産業として存続させるためには何が必要なのか、ここで考えてみたい。
日本国内生産の問題点は解消できるのではないか
日本の製造業が弱体化した理由の1つは、人件費の負担が大きかった。日本製品は高品質だがその分高価であり、新興国の安価な製品に押されて価格競争となり、収益を圧迫して業績が低迷した。
日本製品が高価な理由の1つとして、人件費が高いとよくいわれた。しかし、果たして本当にそうだろうか。
今振り返ってみれば、それは正確な情報ではなかったように思える。正しくは開発の工数が多く、人件費も十分にかけて製品化していたから、販売価格もそれなりに高くなった。それくらい日本のモノづくりは慎重であり、長年の試行錯誤や実績を積み重ねて高品質な製品作りを行ってきたのだ。
また別の見方をすれば、日本はバブル崩壊以来20年近く、ほとんど賃金は上昇していない。かつては世界の工場といわれた中国では、その間に2倍以上に上昇している。アパレルなどは中国ではコストが合わなくなり、カンボジアやミャンマーへと工場を移転したのは、記憶に新しいところだ。つまり日本と中国での生産コストは確実に縮まっている。
それに生産工場では自動化が進んでおり、そもそも作業員の数を必要としなくなっているところも多い。産業ロボットも日本のお家芸であるから、人員の適正配置を追求して生産をより効率化することにより、さらに生産コストは圧縮されつつも日本製ならではの高品質なモノづくりを行なえる。これにより人手不足の解消と生産技術の継承、そして国内生産による経済の活性化という一石三鳥さえ狙えるのである。
それを実現するためには国を挙げてのバックアップが不可欠である。クルマを主体とした製造業の国内回帰を高め、産業の空洞化を食い止めると共に、再び製品の輸出で外貨を稼げる体質に改善するために、規制緩和や補助金の新設、工場用地の斡旋(あっせん)など、やれることはたくさんある。工場用地の問題にしても、現在メガソーラーを展開している場所に工場を建設し、工場の屋上に太陽光パネルを装着すれば、従来の発電量を維持することができるだろう。
日本の工場のほとんどに補助金を出して太陽光パネルを取り付けさせれば、生産時の電力によるLCA(ライフサイクルアセスメント=生産時からリサイクルまでを含めたCO2排出量)の問題による炭素税などの課税問題はクリアできる道筋ができるハズだ。
関税の問題で現地生産を余儀なくされる部分は残っているものの、LCAによって関税自体が緩和されれば、日本からの自動車輸出、すなわちクルマの国内生産は維持できるようになる。
実際、日本メーカーの国内生産の高品質な製品は、世界でも見直されつつある。デニムやタオルなどの紡織製品だけでなく、時計や光学機器などの精密機械製品に続き、クルマも日本メーカーの日本製が世界中で評価されるようになるだろう。テスラが中国生産のモデルで品質問題を起こしているのは、テスラ自身の問題と中国工場における品質管理の問題が複雑にからみ合っている。
クルマは、環境性能や安全性も非常に需要だが、その根底には個体差の少ない安定した生産技術が保証されるものでなくてはならない。急ごしらえのEVベンチャーには、まだその部分の熟成や必要性について認識の甘さを感じさせる。ホンダやマツダが中国の電池メーカーとも交渉しつつも、まずは日本製のリチウムイオンバッテリーを搭載したように、安全性や信頼性を最優先している日本メーカーの姿勢は、これからも世界で評価されるだろう。
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