トヨタ豊田章男氏の主張は、我が身可愛さの行動なのか?:高根英幸 「クルマのミライ」(4/4 ページ)
電動化=脱エンジンなのか? それとも、日本の産業構造を一気に変えるようなことができるのだろうか。たしかに今ここで日本の産業構造を変えなければ、かつての半導体の二の舞いになる。そこで自動車産業を日本の基幹産業として存続させるためには何が必要なのか、ここで考えてみたい。
中小企業の地道な努力は、日本の見えない財産だ
エンジン車から電動車への変換を余儀なくされる中で、日本の自動車産業が危機に立たされていることを肌身に感じたのは、群馬県に本社を持つサンデンが中国企業に買収されたことも大きい。
かつてサンデンはカークーラーでは一世を風靡(ふうび)したブランドである。しかし独立系の自動車部品メーカーは、このコロナ禍により一気に業績が悪化し、2018年からの3年間で黒字から赤字へと営業利益がひっくり返ってしまった。
中国のハイセンスからは200億円以上の資金援助を受けるとはいっても、日本の金融機関が630億円もの債務を免除し金融支援もするのは、群馬県の地場産業をこれからも支えてくれるという期待を込めてのこと。ハイセンス側にそうしたサンデンや地元銀行の期待がどこまで伝わるか、見守っていきたいところだ。
気候変動により、空調機器はクルマだけでなく家庭や店舗、工場にとっても必要不可欠なものとなっている。サンデンはコロナ禍による減産がトドメを指した格好だが、同社の高い技術力は、自社のノウハウだけでなく、小さな部品の一つ一つに込められた下請け企業の努力によっても支えられている。それらを抜きにして技術だけを継承しようとしても、ほころびが生じることになる。また元請けの買収により、日本の中小企業が消滅してしまったら、そうしたモノづくりの伝統も失われてしまうのだ。
ちなみにハイセンスは、東芝のテレビ事業も買収して家電製品においては着実に売り上げを伸ばしている。昨今の自動車電動化の流れで、自動車事業も強化する狙いでサンデンへの出資を決めたようだ。
どちらにせよ外資に日本の製造業を売り渡し、第2第3のサンデンを生むことは、日本の自動車産業が決定的なダメージを負うことにつながるから、避けるべきは明白だ。日本政府は声だけでなくアクションを起こし、日本の産業界を守り活性化するために最大限の支援を行うべき状況にある。
台湾はそうした政策をすでに実施しており、着実に成果を上げている。日本にも優れたところはたくさんあるのだから、今ならまだ間に合うと、筆者は思っている。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。
関連記事
- トヨタがいよいよEVと自動運転 ライバルたちを一気に抜き去るのか、それとも?
トヨタは最新の運転支援技術を採用した新機能「Advanced Drive」をレクサスLSとMIRAIに搭載。さらに、先日の上海モーターショーでは新しいEVを発表した。そして驚いたのは、トヨタが今さら水素エンジンにまで触手を伸ばしてきたことだ。 - SKYACTIV-Xは見切り発車か確信犯か 最新のICTに熟成を委ねたマツダの強かさ
小改良されたSKYACTIV-X。この新世代のガソリンエンジンについては、まだまだ伝え切れていない情報が多い。誤解や曲解、勘違い、無知ゆえの受け売りによる間違った情報も、巷(ちまた)にあふれている。 - メーカー直販EC、カーシェア、EV化の三重苦 日本の自動車ディーラーは今後どうなる?
ここ5年ほどで、自動車ディーラーの店舗が大きく様変わりしてきている。10年に1回はリフォームなどで清潔感や先進性を維持するのが通例となっているが、このところディーラー再編に伴う建て替えと、新しいCIに沿ったイメージへの転換に向けた建て替えという2つの理由で、かなりの数のディーラーが、それまでと一新する装いを放ち始めたのだ。だが、そんな戦略もコロナ禍ですっかり狂ってしまった。 - ホンダの「世界初」にこだわる呪縛 自動運転レベル3に見る、日本の立ち位置
以前から予告されていた、レベル3の自動運転機能を搭載したホンダ・レジェンドが、いよいよ3月に発売となった。しかし発売を心待ちにしていた高級車好きにとっては、少々期待外れの内容だったかもしれない。というのもレベル3の自動運転が極めて限定的であり、なおかつ販売も極めて限定的だからだ。 - オール電化やタワマンを見れば分かる EV一辺倒に傾くことの愚かさとリスク
クルマの電動化に関する議論が過熱している。しかしリアルな現実、そして近い将来の実現性について情報をキチンと分析した上で議論をすべき時だ。ここで考えるのはモーターやインバーター、バッテリーの性能の話ではない。そんなことより根本的な問題が待ち構えているのである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.