3年で2.4倍の売上高 ラクスのSaaS最強決算(4/7 ページ)
国内SaaS領域で最高益を叩き出した企業がある。経費精算システム「楽楽精算」や電子請求書発行システム「楽楽明細」などのSaaSプロダクトを提供するラクスだ。5月13日に公表した2021年3月期決算発表では、売上高153億円(前年同期比32.6%増)、営業利益38億円(前年同期比232%増)と他社を圧倒する利益水準となった。
ラクスの本質的な強みとは
ラクスを理解する際に欠かせない2つのポイントがある。まずはラクスの本質的な強みだ。
(1) 全てを追わず、特定課題に深く刺す
ラクスの主要プロダクトである楽楽精算や楽楽明細は、SaaS型の経費精算システムを初めて導入するような中小企業を主要顧客としている。
freeeやマネーフォワードが提供する全方位の機能を提供する「スイート型」のバックオフィスシステムが注目される中で、ラクスはあくまで単一機能を提供する「ベストオブブリード型」にこだわりを見せる。
スイート型は会計、経費精算、給与、勤怠などバックオフィス関連業務の多くをカバーできる反面、ユーザーによっては一部の機能しか使いこなせていない、機能開発が不十分であるなどの不満を抱えることがある。
ラクスは「業務課題を解決」することを何よりも重視している。楽楽精算でいえば、経費精算を担当する経理部門の業務負荷の解消が最優先課題であり、その最適解を追求していった結果がベストオブブリード型でのアプローチであった。
この成果はラクスが公表している各プロダクトのLTV(Life Time Value : 契約当たりの生涯収益)に如実に現れている。
例えば、楽楽精算の1契約当たりのLTVは1466万円だ。そこから推測される月次解約率は1%を切ると見られ、ユーザーの定着度が非常に高いことが伺える。
取材を進める中で印象的だったのは、「エンドユーザーから楽楽精算のユーザビリティが非常に優れているというフィードバックは少ないのですが(笑)、経理の方の煩雑な業務を開放する課題解決には絶対の自信がある」(ラクス関係者)という"実"を取る思想の強さだ。
ラクスは「楽楽」シリーズと銘打ち、請求書管理システム、販売管理システムを提供しているため、一見すると製品連携のあるスイート型の展開を進めているように見えるが、「楽楽精算と楽楽明細はログインIDでさえ共通ではない」(ラクス関係者)ほどに製品を独立させ、特定課題にフォーカスしている。
このように深いユーザー理解と課題解決志向をもとに、連続的に強いSaaSプロダクトを作ることができる「SaaS立ち上げ再現力」にこそ同社の最大の強みがあると言える。
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