金融にSaaSモデルで挑むウェルスナビ 国内ロボアドで一人勝ち(3/3 ページ)
ロボアドバイザーサービスを提供するウェルスナビが好調だ。預かり資産額は1年間で倍増し4025億円となり、一人勝ちという状況だ。実はウェルスナビの決算資料には、ARR、チャーンレートといった指標が並び、一般的な金融事業とは異なった表現がされている。これらは、いわゆるSaaS企業が好んで使うKPIであり、ウェルスナビは自社をSaaS的な企業だと位置づけているからだ。
市場変動の影響をどう見るか
これまで資産運用事業において、SaaS的な指標で事業を測る企業は少なかった。証券会社であれば取引手数料がメインの収益源であり、ホールセールについても顧客側のスポットの需要によって収益が大きく変動するからだ。
ウェルスナビでは、預かり残高の1%というシンプルな収益モデルと、長期、積み立てを前提とした商品を用意することで、継続的に預かり資産残高が伸びる仕組みを作り上げた。国内の投資信託は、成績が悪化するとすぐに顧客が離れることが知られており、平均保有期間は3年だともいわれる。それに比べて、解約率が低く、安定的に収益が確保できるウェルスナビの事業モデルはSaaS的だといえそうだ。
ただし金融商品ならではのリスクもある。収益は預かり資産残高に連動するが、預かり資産残高は市場の株価変動に左右されるという点だ。市場が好調で預かり資産残高が膨らめば、ウェルスナビの収益も増加する。一方で、市場が悪化し預かり資産残高が減少すれば、収益もその分減少することになる。
実際、コロナショックにおそわれた20年12月期1-3月の収益は、5億400万円と前四半期から2100万円の伸びにとどまった。このとき一時的に預かり資産残高は減少に転じており、そのことが収益にマイナスの影響を与えた形だ。
預かり資産残高の推移。20年12月期1-3月はコロナショックの影響で、残高が一時的に減少した。また、直近四半期の「前年同期比+103%」は、この一時的な減少に対する増加分なので、5%ほどトレンドからかさ上げされている
また21年12月期1-3月は、前年同期比で収益が78%増加したが、一方でこの間米国の株価指数であるS&P500は38%の伸びを見せている。ウェルスナビの運用先はすべてが株ではないが、株式市場の好不調が預かり資産残高を増減させ、それが収益に影響を与える構造だ。コロナ禍において株高が継続しており、そのことが好影響を与えている要素がある。
とはいえ、同社の事業運営は堅実といえるだろう。21年12月期の業績予想は、預かり資産で5307億円、営業収益で43億1600万円とみており、伸び率はそれぞれ61%、71%と前年同期とほぼ同じペースだ。一方で、SaaS企業を標ぼうする中で顧客獲得の最重要項目であり、先行投資でもある広告費については、具体的な計画を公開しなかった。
通期営業利益の予想についても、「広告宣伝費を除く営業利益」を10億7600万円とする開示にとどまった。直近の1-3月期の広告宣伝費は3億2800万円であり、年42%前後という顧客獲得ペースを維持するなら、この4四半期分以上の広告宣伝費がかかるとみられる。知名度向上などによる広告効果の向上により、獲得単価がどれだけ減少するかがカギとなりそうだ。
「足下の利益ではなく、預かり資産および営業収益の成長トレンド維持を目指す。自然体での黒字転換を実現する」。柴山氏はこのように話した。金融の資産運用事業を、SaaSモデルで運営するウェルスナビは、SaaS的な成長を遂げるだろうか。
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