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仮想通貨を大暴落に導いた“ESG”とは何者なのか古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

あのイーロン・マスク氏も太鼓判を押していたビットコインが、今大暴落している。この暴落相場の背景には、中国による規制や、納税のための換金売りのタイミングが重なった点ももちろんあるが、やはり最大の要因はESG懸念に基づくマスク氏の「心変わり」にあると見られている。

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ESG投資とは何者か

 さて、ここまででたびたび挙がったESGだが、最近ではSDGsという言葉とセットで使われることも多い。この単語はビットコインのような仮想通貨だけでなく、JTのようなタバコ企業など、株式市場においても特定の企業における株価に深く関わっている概念であり、今後はESGに気を払わなければ相場の見通しを誤る可能性があるため、注意が必要だ。

 ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、およびガバナンス(Governance)の頭文字を取った用語で、持続可能性や社会的なプラス影響を投資判断の材料としていく考え方だ。SDGsは持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)の略称で、こちらは2015年の国連サミットで採択された17目標の総称を指している。


持続可能性な開発目標、SDGs

 どちらにも共通する概念として挙げられるのが、持続可能性だろう。ESG-SDGsの題目に沿っていない企業は、一言で言えば、「今は利益を出せても将来的に地球に大きなダメージを与え得るため、中長期投資の対象にならない」という烙印(らくいん)を押される。そしてこの投資の意思決定は、金融市場において主流になっており、市場での影響力を増している。先に挙げたJTは、そんなESG投資によって最もダメージを受けている上場企業ではないだろうか。

 同社は健康に害があるタバコを販売しているとして、たびたび機関投資家のポートフォリオから除外されたり、その動きに乗じて売りが入るなどして、国連サミットのあった15年から、株価は半額以下にまで落ち込んでおり、株高の恩恵にあずかれなかった。同社は禁煙を促す広告や、医薬品事業も拡大することでESGアピールを行っているが、本業がタバコ販売である以上、今後も厳しい展開が続きそうだ。

 このESGの概念は、これまでは株式投資やベンチャー投資といった文脈で使われることがメインだったが、今回はビットコインという主体がなく、機関投資家のような市場参加者もそれほど参入していない投資対象についても語られだした点が特徴的だろう。これは個人投資家のレベルにもESGの概念が浸透し始めていることを示唆しており、テスラのようにビットコインに投資した企業が、自社のESG評判を落とすリスクを鑑みて積極姿勢を崩すような動きにもつながっているといえるだろう。

ESGの問題点

 ただし、ESGの基準はあいまいで問題も多いのが現状だ。一説にはビットコインはアルゼンチン1国分クラスの電力消費量があるともいわれている。しかし、産業全体で見ると、最も地球温暖化をもたらしているのは「畜産業」で、全温室効果ガスの18%が畜産動物の排出するメタンガスなどの形で排出されているという。

 そうすると、食肉を扱う企業は温室効果ガスを間接的に多く排出し、地球温暖化に積極的であるとしてESG投資対象から外されてもおかしくはないはずだが、良くも悪くもこの辺りは“柔軟”だ。

 他にも、ESG投資は「受託者責任」の面で問題もある。ESGの理念に従えば、本来であればより利益が期待できる投資対象でも投資を行わないこともあり得る。これは、投資信託などの受益者利益に反する取引を行わないことを定めた「忠実義務」に反する可能性もある。

 そんなESG投資は「利益は出なかったけれども、“いい会社”を応援したから問題はない」という免罪符にも半ば使われ得る。ESGは、投資に対してパフォーマンス以外に投資家を測る「付加価値」として今後も利用されていくのかもしれない。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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