鉄道と脱炭素 JR東日本とJR西日本の取り組み:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/9 ページ)
2021年5月26日に参議院で可決した「地球温暖化対策推進法の改正法案」は、地球温暖化対策として、CO2など温室効果ガスの削減への取り組みを求めている。CO2削減では自動車業界の話題が突出しているが、鉄道業界はどのようにしていくつもりだろうか。
まず、鉄道事業のCO2排出量は他の輸送モードに比べて少ない。1人を1キロメートル運ぶ場合に排出するCO2の量で比較すると、鉄道は18グラム、自動車は133グラム、航空機は96グラム、バスは54グラムだ。
CO2が1キログラムのとき、体積は約509リットルで、一人暮らし用ユニットバス(約200リットル)の2杯半くらいだ。人がクルマで1キロメートルを移動した場合、1人あたり2リットルペットボトル約34本分のCO2を排出する。鉄道を利用すれば2リットルペットボトル4本半で済む。
JR西日本の資料は旅客移動のみ記載されている。貨物になるとこの差は顕著で、貨物1トンを1キロメートル運ぶ場合に排出するCO2量を比較すると、鉄道は旅客と同じ18グラム、自家用貨物車は1166グラム、営業用貨物車は225グラム、船舶は41グラムとなる(国土交通省、運輸部門における二酸化炭素排出量より)。できることならばトラック輸送を減らして鉄道にシフトしたい。
ただし、旅客にしても貨物にしても、技術の進歩によってCO2排出量は変わっている。例えば旅客自動車のCO2排出量は、18年の133グラムに対して19年は130グラムとなっている。エコカーの普及を反映しているようだ。
鉄道の優位は変わらないけれども、いつまでも同じ比率というわけではない。また、この数値は総排出量と総移動量の平均だから、クルマに1人で乗っている状態と、鉄道の大型ディーゼルカーに1人で乗っている場合を比較すれば、大型ディーゼルカーのほうがエネルギーの無駄遣いで、排出するCO2量も多い。鉄道のCO2排出量の少なさは、CO2をほぼ出さない通勤電車がラッシュアワーに大量輸送しているからだ。ここは交通手段を利用する側が心得ておきたい。
JR西日本、JR東日本は、ともに鉄道と他の交通モードを比較し、CO2排出量の少なさを訴える。しかしそれは、制度を作って強制的に移行させたいという主張ではない。「鉄道をもっと使いやすくして、マイカーや航空など他の輸送モードから移行してもらうように頑張っていきたい」という表明と捉えるべきだろう。
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