鉄道と脱炭素 JR東日本とJR西日本の取り組み:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/9 ページ)
2021年5月26日に参議院で可決した「地球温暖化対策推進法の改正法案」は、地球温暖化対策として、CO2など温室効果ガスの削減への取り組みを求めている。CO2削減では自動車業界の話題が突出しているが、鉄道業界はどのようにしていくつもりだろうか。
省エネ電車は、炭素由来の電力課税リスクを回避するため
鉄道事業で消費するエネルギーのほとんどは電力だ。JR西日本では列車運行エネルギーの約97%が電車で、残り3%がディーゼルカーまたは蒸気機関車だ。駅施設など列車運行以外のエネルギーも90%が電力で、暖房や給湯ボイラーなど10%が燃料となっている。これらを総じて、JR西日本の鉄道事業全体の化石燃料使用率は4%である。つまりエネルギーの消費者として、ほとんどCO2を排出していない。
しかし、現状で日本の電力は火力の割合が多いため、電力の省エネも実施し、国全体のCO2排出量を減らしていきたい考えだ。これは化石燃料由来の電力に対して課税されるリスクの回避にもなる。電力回生ブレーキやVVVFインバータ(半導体による制御装置)を採用した省エネルギー電車への置き換えを進めている。また、電車用の余剰電力をいったん貯蔵して需要の多い時間帯に再利用するシステムや、直流を交流に変換して駅施設に供給するシステムなどを設置している。
使う側でどんなに努力しても電力使用量をゼロにはできないから、最終的には発電側、国の電力政策にかかっている。水力、風、潮力、地熱など再生可能エネルギーの生産設備が整うまでは、原子力を使う必要があるかもしれない。しかしこれは政策の問題だ。鉄道事業者など電力使用者がどうにかできる話ではない。
さて、列車運行エネルギーの3%、直接的にCO2を排出するディーゼルカーや蒸気機関車をどうするか。蒸気機関車は観光用となっていて電車に置き換えられないし、運行量も少ないから除外するとして、ディーゼルカーについては、JR西日本は2段階でCO2削減を見込んでいる。第1段階で「次世代バイオディーゼル燃料」の採用。第2段階で新エネルギー車両への置き換えだ。
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