鉄道と脱炭素 JR東日本とJR西日本の取り組み:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/9 ページ)
2021年5月26日に参議院で可決した「地球温暖化対策推進法の改正法案」は、地球温暖化対策として、CO2など温室効果ガスの削減への取り組みを求めている。CO2削減では自動車業界の話題が突出しているが、鉄道業界はどのようにしていくつもりだろうか。
蓄電池電車と燃料電池車は主流になれるか
JR西日本は既存の気動車を残し、バイオディーゼルで運用しつつ、次世代の非電化区間用車両に置き換えていきたいという。CO2ゼロ車両について具体的な方式は明らかにしていない。いや、決めかねている状況だろう。候補になる技術はいずれも開発途上であり、正解が見つからない。
JR東日本は積極的に採用し、実証実験を行っている。ハイブリッド車両を早期から投入しており、電気式気動車も開発した。現在はトヨタ自動車の協力も得て燃料電池電車を試験中だ。
ハイブリッド車両はエンジンとモーターと蓄電池を搭載する。エンジンで発電し蓄電池に供給し、走行用電力とする。ブレーキ時に電力回生装置で発電し蓄電池に戻す。エンジンの稼働機会が減るため燃料消費が少なくて済む。
電気式気動車はモーター駆動に必要な分だけエンジンで発電する。蓄電池は最小限で、発車からエンジン回転が安定するまでは蓄電池でモーターを駆動する。蓄電池の充電のため回生ブレーキも搭載している。基本的に走行中は常にエンジンが稼働している。エンジンから車軸へ伝達する際にエネルギーのロスが大きいため、いったん発電してモーターを回し、エネルギー効率を上げる。ディーゼル機関車の仕組みとして歴史は長い。
この技術が採用された背景には、蓄電池特有の懸念がある。蓄電池も需要増大で購入コストが上がっている上に、安定供給に不安がある。蓄電池自体が重く、必要なエネルギーを増やしてしまう。ハイブリッド車両はローカル線の閑散線区には高額すぎる。だから蓄電池を抜いてしまおう。これが電気式気動車だ。
ハイブリッド車両と電気式気動車はエンジンを搭載しているため、CO2削減効果は少ない。そこで、鉄道車両の新動力としては、蓄電池と燃料電池が最有力だ。蓄電池車両は電化区間や駅などで車両のバッテリーに充電し、蓄えた電力で走る仕組み。CO2は出ない。燃料電池車は燃料の水素と大気中の酸素を化学反応させて発電する。こちらも副産物は水だけ、CO2は出ない。
今のところ燃料電池はクリーンなエネルギーの筆頭で、自動車業界では市販車もある。高価だが政府から補助金も出る。問題は水素の供給場所が限られており、ガス欠ならぬ水素欠の不安が付きまとう。水素ステーションの設置数も少なければ営業時間も短いため、ガソリン車やハイブリッド車のように気軽には使えない。
その点、鉄道やバスの車両は計画的に運行されているから、走行距離に応じて給水素スケジュールを組める。燃料電池を鉄道車両から採用を広げ、そのインフラを自動車に開放すれは、燃料電池車の普及に弾みがつくと思う。
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