鉄道と脱炭素 JR東日本とJR西日本の取り組み:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(7/9 ページ)
2021年5月26日に参議院で可決した「地球温暖化対策推進法の改正法案」は、地球温暖化対策として、CO2など温室効果ガスの削減への取り組みを求めている。CO2削減では自動車業界の話題が突出しているが、鉄道業界はどのようにしていくつもりだろうか。
新動力候補で急浮上する「水素エンジン」「e-fuel」
自動車業界に目を向けると、新たな燃料が急浮上している。「水素エンジン」と「e-fuel」だ。
水素エンジンは水素を直接発火させ燃焼させる。燃料電池は水素と酸素を化学反応させて電気を発生させていたけれど、トヨタが開発した水素エンジンは、ガソリンエンジンの燃料供給装置と燃料噴射装置を変更し、水素をガソリン同様に燃やす。エンジンオイルも燃えるから、CO2は発生するけれども、その量は極めて少ない。
トヨタは5月21日から22日にかけて開催された富士24時間耐久レースで、水素エンジン搭載のカローラを走らせた。最新技術だし、失敗は付きもの。しかし、見事に24時間を走りきってチェッカーフラッグを受けた。しかもラップタイムはライバルと遜色ない2分数秒台。常に下から3番目あたりを走っていたけれど、これは給水素に時間がかかるからだ。水素の圧力差で燃料を注入していくため、タンク半分で圧力バランスが均衡して注入スピードが下がる。そこでもう1台の給水素車につなぎ直す。
この2回給水素を毎回やるから周回数を稼げない。しかし、ここを改善できればトップが見える。YouTubeの同時中継でも、世界初の水素レースカーに時間を割いた。最下位から3番目のクルマがこんなに注目されたレースは珍しい。
水素燃料は、原理としては既存のガソリンエンジンやディーゼルエンジンを改造して対応できるという。問題はレースでも明らかになったように航続距離だ。コンパクトカーよりも大きな水素タンクを載せられるバスが向いている。鉄道車両ならもっと適している。頑丈な国鉄型キハ40形を水素エンジン車に再生できたらおもしろい。地方の非電化ローカル線も導入しやすいだろう。
「e-fuel」は水を電気分解した後の水素(H)と酸素(O)から、水素ガス(H2)を生成し、CO2と触媒反応を起こして作る。軽油と同じ炭化水素系の燃料だ。だから次世代バイオディーゼル燃料と同様にCO2を排出する。しかし、もともと大気中にあるCO2を原料とするため、大気中のCO2を増やさない。
「e-fuel」もガソリンや軽油と混合する形で現在のエンジンに使える。将来的に「e-fuel」100%で動くエンジンが商品化されると、CO2排出量は実質ゼロになる。
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