鉄道と脱炭素 JR東日本とJR西日本の取り組み:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(8/9 ページ)
2021年5月26日に参議院で可決した「地球温暖化対策推進法の改正法案」は、地球温暖化対策として、CO2など温室効果ガスの削減への取り組みを求めている。CO2削減では自動車業界の話題が突出しているが、鉄道業界はどのようにしていくつもりだろうか。
JR東日本の火力発電も「みなしCO2ゼロ」へ
太陽光発電は鉄道事業者が最も取り組みやすい電力供給源だ。駅舎やプラットホームの屋根にソーラーパネルを設置する事例は多い。大規模ソーラー発電所の取り組みも始まっている。JR西日本の厚狭太陽光発電所は、年間で約510万キロワットアワー、一般家庭の約1020世帯相当の電力を供給する。JR東日本も福島県で「富岡復興メガソーラー・SAKURA」事業に参画、東北各地で風力発電を手掛ける。
JR西日本を始め多くの鉄道事業者は「電力を使うからCO2排出量ゼロ、発電のCO2排出は責任範囲外」だ。しかし、JR東日本は国鉄時代に使っていた発電所を継承している。首都圏の電車の電力を自社生産してコストを下げる目的だ。新潟県に信濃川発電所、神奈川県に川崎火力発電所がある。信濃川発電所は水力、つまりもともと再生可能エネルギーだ。問題は川崎火力発電所だ。電力の上流を脱炭素化しないとCO2排出量ゼロを達成できない。
JR東日本の資料によると、川崎発電所は2つの方法でCO2排出量ゼロに取り組む。1つは水素発電、もう1つは「カーボンニュートラルLNG火力発電」だ。
水素発電は水素エンジンと同様、水素を燃焼して発電用タービンを回す。ただし水素発電用に設備を更新する必要があり、初期コストは大きい。そこで既存の発電設備の一部を改良し、現在の燃料のうち2割から3割を水素と混合させる仕組みもある。これは過渡期の手法といえる。
「カーボンニュートラルLNG火力発電」は、現在のLNG(液化天然ガス)発電設備をそのまま使える。燃料はLNGだ。CO2を排出する。その代わり、排出する分だけ、CO2を吸収する事業を実施する。例えばロイヤル・ダッチ・シェル社のカーボンニュートラルLNGは、天然ガスの採掘、輸送、燃焼などで排出されるCO2と同等のCO2を吸収するため、世界各地で植林、森林保全などを実施する。その費用をLNGの価格に上乗せする。つまり、排出されるCO2の処分料金を負担する。これで実質的にCO2はプラスマイナスゼロになる仕組みだ。
いずれ完全に水素発電に移行するとしても、それまではカーボンニュートラルLNG火力発電を使って既存施設を有効利用し、設備投資コストを分散させる。
関連記事
- 「悪質撮り鉄」は事業リスク、鉄道事業者はどうすればよいか
有料道路を走る暴走族は、道路会社にとってお客様ですか。これと同様に「悪質撮り鉄」は、他の撮り鉄だけではなく、鉄道趣味、旅行ビジネスに悪い影響を与えている。本来、鉄道事業者が守るべきは「お客様の安全」であり、彼らはそれを脅かす存在だ。毅然とした態度が必要となる。 - 鉄道模型は「走らせる」に商機 好調なプラモデル市場、新たに生まれた“レジャー需要”
巣ごもりでプラモデルがブームに。鉄道模型の分野では、走らせる場を提供する「レンタルレイアウト」という業態が増えている。ビジネスとしては、空きビルが出やすい今、さらなる普及の可能性がある。「モノの消費」から「サービスの消費」へのシフトに注目だ。 - 「第2青函トンネル」実現の可能性は? “2階建て”構想の深度化に期待
2020年11月、「第2青函トンネル」構想の新案が発表された。2階建てで、上階に自動運転車専用道、下階に貨物鉄道用の単線を配置する案だ。鉄道部分は輸送力が足りるか。急勾配も気になる。だが、新トンネルは必要だ。設計の深度化を進めて実現に近づいてほしい。 - 運賃「往復1万円」はアリか? 世界基準で見直す“富士山を登る鉄道”の価値
富士山登山鉄道構想について、運賃収入年間約300億円、運賃は往復1万円という試算が示された。LRTなどが検討されている。現在の富士スバルラインと比べると5倍の運賃はアリなのか。国内外の山岳観光鉄道を見ると、決して高くない。富士山の価値を認識する良いきっかけになる。 - 中央快速線E233系にトイレ設置、なんのために?
JR東日本の中央線快速で、トイレの使用が可能になることをご存じだろうか。「通勤電車にトイレ?」と思われた人もいるかもしれないが、なぜトイレを導入するのか。その背景に迫る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.