急成長のサンコーが、「オモシロ家電」を追求する意味とは:家電メーカー進化論(2/6 ページ)
「サンコー」といえば、ユニークで一風変わった「おもしろ家電」で知られるメーカーだ。面白さと同時に、コスパの良さと便利さも備え、人気を博している。この「おもしろ家電」を開発できた秘密とは一体何なのか。サンコーの山光博康CEOに話を聞いた。
男性顧客メインながら、初の自社製品は爪ヤスリ
――そのUSB手袋が、最初の自社開発製品だったのでしょうか。
いえ、最初は05年に企画したUSBのネイルケア製品でしたね。USB電源で動く爪ヤスリです。もともとサンコーレアモノショップではPC関連機器を販売していたので、顧客が明らかに男性に偏っていました。ですので女性向けのマーケットを開拓しようと企画したはずです……ちょっとうろ覚えですけど(笑)。
――男性顧客がほとんどのショップで、そのネイルケア製品は売れましたか。
爆発的な人気にはなりませんでしたが、製造分は全部売り切れました。当時は目標販売台数を決めず、小ロットで作って売り、売れたら製造、売切れたらまた製造、という方式で作っていたんです。USBのネイルケア製品も、ロット1000個以下で作って2回転くらいはしたと思います。「小さく作って売る」を繰り返したため、どの製品も在庫が残るということは基本的にありませんでしたし、さらにショップ自体を大きく育てることもできました。
――当初の自社企画製品は、USBネイルケア以外はほぼパソコン関連ということですが、どうして生活家電を企画するようになったのでしょう。
当初のサンコーは、パソコン周辺機器やスマートフォンアクセサリーなどをメインに販売していました。しかしスマートフォンの進化が大変早く、アクセサリーとして当社が販売していたグッズが、どんどんスマートフォンに標準装備されてしまいました。それで、収益がどんどん小さくなってしまったんです。
そんな時に目をつけたのが生活家電でした。ただ家電は、強い大手メーカーがすでに国内にいくつもありましたし、一方当社は周辺機器やガジェット類を扱うメーカーとしての認知があったため、実は長い間、二の足を踏んでいたのです。結局16年に、当社初の家電としてハンガー型のドライヤーを発売しました。
――比較的、最近のことなのですね。なぜ最初の製品にハンガーを選んだのでしょうか。
サンコー設立以来、当社で扱ってきた製品は「面白くて、役に立つ」という2つの条件を満たしたものだけに絞っています。このUSBハンガー「服や靴が早く乾く!温風ハンガー乾燥機」は、まさにこの2つの条件を満たしていた点が最大の理由ですね。
またサンコーレアモノショップに訪れる顧客は、主に30〜50代の男性なのですが、この層はビジネスマンも多く、Yシャツを乾かすのにちょうど良いのではないかと思ったこともあります。実際、この製品はあっという間に数千台売れました。「USBハンガーがこれだけ売れるなら、もっとラインアップを広げても売れるだろう」と、家電に関しては、最初の製品から手ごたえを感じることができましたね。
家電を扱うようになってからは、売上高も順調に推移していています。売上高は、17年に10億でしたが、今期予測では30億まで伸びているんです。今季予測のうち、家電系の売り上げは約7割と過半数を占めています。ちなみに、家電を始めた17年は、家電の売上高比率は1割程度しかありませんでした。
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