“日本一の朝食”を出す函館のホテル 宿泊客数を抑えてまで守ったモノとは?:連載・瀧澤信秋「ホテルの深層」(2/4 ページ)
日本一の朝食と言われるセンチュリーマリーナ函館は、宿泊予約流入をコントロールし“稼働を落とす”ことを指示。宿泊客を減らしてまで実現したかったこととは?
”日本一の朝食”と名高い函館のホテルとその秘密
北海道はエリア全体がホテル朝食激戦区であることを前述したが、“日本一”と評価の高い朝食を提供するのが「センチュリーマリーナ函館」(函館市)だ。
函館駅や函館朝市、金森赤レンガ倉庫といった函館の観光名所にほど近い場所へ19年春にオープンした。同所は“函館ベイエリア”といわれ、すでに朝食において全国区の人気を誇る施設が集中していた。
一方でセンチュリーマリーナ函館は、開業後ほどなくして旅行サイトの朝食ランキングで全国1位となりその名を全国に轟かせた(旅行サイト「リラックス」朝食満足度全国1位)。既存の周辺ホテルについて研究できる立場ということもあったのだろうが、センチュリーマリーナ函館の朝食には、それだけにとどまらない数多くの秘密が隠されていた。
同ホテルの朝食をプロデュースしたのが、ホテルを運営する札幌国際観光相談役の中野元氏。中野氏は長年、食品製造業界に身を置き、飲食業に関与はしていたものの、ホテル業界での経験はなかった。
そのような中野氏であったが、グループホテルの「センチュリーロイヤルホテル」(札幌市)、「釧路センチュリーキャッスルホテル」(釧路市)の朝食改善でホテル再建の手腕を発揮。釧路では宿泊売り上げが再建前の約3倍となった。
そうした経験が、センチュリーマリーナ函館の朝食誕生に大いなる影響を与えている。ある種、ホテルのプロではない中野氏の手による「日本一の朝食」なのである。
中野氏が朝食で着目したのが「だし」だ。スープをどのようにとるか半年間試行錯誤した。中華スープは丸鶏を使用し、ブイヤベースは本場の味を求め、仏・マルセイユまで試食に行った。和だしは最終的に高級と名高い「利尻昆布」に着地。利尻島にはグループホテル「アイランドインリシリ」があり、リーズナブルに入手できる手段もあったという。
「だし昆布」といえば、京都で1日1万円分くらいの量を使う料亭もあるが、同ホテルでもピーク時には、1回の朝食で5000円分以上は用いるという。仕入れが安価なので5000円といっても数量は相当だ。
関連記事
- ホテル業界復活のカギは「朝食」にあり? コロナ禍でヒルトンが進めた115項目の改善
ホテルにとって朝食はキモ。“朝食でホテルを選ぶ”人も多いだろう。人気の尺度という点で朝食の良しあしは注目されるポイントになっているのは事実だ。筆者はソーセージと焼き鮭に注目する。 - バブルの名残 温泉街の「大型施設」が廃墟化 鬼怒川と草津の違いと「大江戸温泉物語」の戦略
コロナ禍がもたらす温泉街への影響は甚大だが、「温泉の魅力」として考えさせられるのが“街づくり”という点だ。筆者は「施設そのもので集客できる強い宿は例外的で、温泉地の魅力自体が集客を左右する」と指摘する。 - コロナ禍でも黒字のアパホテル 常識破壊の”強さ”と悲願の10万室が生んだ“功罪”
アパホテルが2021年5月10日に創業50周年を迎えた。いまや日本を代表するホテルブランドとして圧倒的な知名度を誇る同社。コロナ禍の中、2020年11月期連結決算で黒字を確保したという発表は、ホテル評論家としても衝撃的だったと筆者は語る。 - 1泊20万円超も コロナ禍なのに高級ホテルが続々開業するワケ
宿泊業の経営破綻や開業延期・中止などのニュースが続いているが、新規開業が目立ち鼻息荒いのが“高級”といわれるホテルや旅館だ。 - 開店1カ月目で黒字達成 「24時間無人」の古着店 店員不在でも支持されるワケ
東京都中野区にちょっと変わった古着店がある。24時間営業で店員がいない店、その名も「ムジンノフクヤ」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.