ジョブ型雇用のために、人事部門に求められる自己改革:いまさら聞けないジョブ型雇用(3/7 ページ)
ジョブ型雇用を日本企業で確実に根付かせていくためには、まず人事部門が変わらなければいけないことを説明します。
特に経営戦略の実現に向けて、既存の社員とは異なる技能や資質を持った人材を多く確保しなければならない状況下では、メンバーシップ型雇用では限界があり、どうしてもジョブ型雇用を取り込んでいかなければなりません。
先述のデジタル人材などが良い例だと思います。じっくりとジェネラリストを育てようとするメンバーシップ型では、この種の高度な専門性を持った人材を採用することも、育成することも困難です。必要な人材のスペックを定めて、可能性のある人材のリスキル(学び直し)を行ったり、スペックに合致する人材を市場価格で採用したりするには、適所適材を標榜(ひょうぼう)するジョブ型でなければ無理があります。いわば、ジョブ型雇用は人事戦略を動かすプラットフォームであるとも考えられるのです。
ここで話が少しそれますが、最近はVUCAの時代だといわれています。VUCAとはもともとは軍事用語で、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの頭文字を並べたものです。以前とは比べものにならないほど、将来予測が難しくなった経営環境を指して、VUCAの時代が到来したといっているのです。最近では、将来を見通せない中で経営計画を立てる意味がないと判断し、中期経営計画を作るのをやめる企業すら出てきています。
VUCAな経営環境に対処するためには、アジリティー(俊敏さ)が必須になると各所で指摘されています。先が読めない世界の中では、その時々で環境に素早く適応していかなければ生き残れない、というのが大筋の論旨です。企業経営における機敏さ、俊敏さの重要性は、誰しもが否定できないことだと思います。ところが、多くの日本企業にはこのアジリティーが不足しています。
日本企業の意思決定の最たる特徴に、ボトムアップ型の計画策定プロセスがあげられます。各事業部門、機能部門にまず自分達の計画を立案させて、それを取りまとめる形で全社の計画を策定していくのが日本企業のやり方です。中期経営計画、年度計画、予算など、あらゆる計画がボトムアップで策定されていきます。通常、どんな日本企業にも経営企画部のような部署があり、彼らが各部門から上がってきた計画の取りまとめと、部門間の調整を行います。
実は、経営企画のような部署は日本企業独自のもので、グローバル企業にはそれに類する部署はあまり存在しません。それは、グローバル企業では、計画はトップダウンで策定されるからです。経営トップたるCEOが全社の計画を決め、それを各部門に下ろしていくのが彼らのやり方です。従って、取りまとめと調整の役割を担う部署が必要ないのです。
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