アイドリングストップのクルマはなぜ減っているのか? エンジンの進化と燃費モードの変更:高根英幸 「クルマのミライ」(2/5 ページ)
アイドリングストップ機構を備えないクルマが登場し、それが増えているのである。燃費向上策のキーデバイスに何が起こっているのか。
アイドリングストップはシビアコンディションを招く
アイドリングという言葉は「サボっている」という意味も含む。ところが、エンジンにとっては実は厳しい環境であることは、意外と知られていない。
アイドリング中も実際にはエアコンのコンプレッサーや発電機を駆動したり、エンジンや変速機に内蔵されたオイルポンプで油圧を作り各制御を機能させたり、ブレーキのサーボ(最近はモーター駆動も多いが)に吸気系で発生する負圧を利用させたりして、停車状態の保持に役立っている。これらの機能はアイドリングを停止することで、当然失われることになる。だからCVTなど、減速比の固定やベルトにより駆動力を伝えるために油圧が欠かせない変速機は、油圧をキープする工夫が盛り込まれている。
しかし実はそんなことより、アイドリングストップによるメリットがわずかな燃費向上であるのに対し、デメリットが小さくないことの方が問題だ。アイドリングストップは実は「エンジン始動回数が増える」ということも意味する。これは実はエンジンにとってはうれしくない状況だ。
まずエンジンを始動させる際には大きな電流が必要だ。それは停止していたエンジンを一定数の回転まで上昇させ、燃料を噴射して点火するためだ。
アイドリングストップ機構により始動回数が増えることから、セルモーターが強化されるだけでなく、完全に停車していない状態からも再始動が行なえるよう、セルスターターのギア機構が改善されスターターリングギアと常時かみ合う構造とされるなど、対策が施されている。
またバッテリーからたびたび大電流が供給されるとなると、バッテリー電圧が低下すると始動不能に陥ってしまう。そのためアイドリングストップ搭載車の発電機は発電容量が増やされているだけでなく、バッテリーの蓄電状態に応じて発電量を制御する仕組みも盛り込まれた。そのためバッテリーも、短時間での大電流の出し入れに対応した高性能な専用品が充てがわれている。
このようにバッテリーやセルモーターの負担は小さくないが、実はエンジン本体の負担も見逃せないのである。エンジン内部のムービングパーツは停止している状態から動く時、また急に動くスピードを変化させた時に最もストレスがかかる。それは部品同士の摩擦や部品内部に発生する応力の繰り返しとなって、ジワジワとダメージを蓄積させる。
またエンジンオイルにとってもそれは厳しい環境となる。走行距離は短くとも一定の時間でオイルの分子鎖は千切れていき、始動時に噴射された燃料や燃えカスにより、燃料希釈やカーボン、スラッジの発生につながり、部品の摩耗粉と合わせてオイルの潤滑性能を低下させていくのだ。
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