“鉄道観光ビジネス”再起動、失われた2年間をどう取り戻すのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/10 ページ)
沖縄県を除く緊急事態宣言解除、新型コロナウイルスワクチン接種の進ちょくを見越して、鉄道旅行ビジネスが活気づいてきた。冷え切った観光需要を「元通り」にするには、「元通り」の商品展開では足りない。そこで「工場夜景ツアー」「観光急行列車」「おみやげ品割引」など、注目の事例を紹介しつつ、今後の新施策に期待したい。
まず「国鉄の電車急行」の再現にこだわった。その時代を懐かしむ人々を集客できる。国鉄時代と同じ「乗車券のほかに急行券が必要、自由席」という販売方式もこだわりの一つ。複線区間を快走し、主要駅以外はスキップする運行も、かつての北陸本線の急行を再現する。
ただし、もっとも海がよく見える区間では徐行して景色を楽しんでいただけるようにした。アテンダントによる見どころポイント解説もある。そこがただの急行ではなく、観光という冠詞が付く理由である。今となっては珍しくなりつつある「車内販売」もある。6月29日の試運転では直江津駅で駅弁の立ち売りも行われた。古き良き時代の旅がある。
そして「地域への貢献」だ。プラス500円で乗れる急行電車は、地元沿線の人々も手軽に楽しめそうだ。多くの地方都市と同様、この地域もマイカー利用が多く、鉄道利用は高校生の通学が主になっている。
そこで、ふだん鉄道に乗らない人々に、鉄道の旅を楽しんでもらいたい、えちごトキめき鉄道の存在を印象づけたい。そのためにも乗っていただく仕掛けが必要だった。
さらにいうと、地域経済の貢献度は「急行電車」のほうが大きい。「えちごトキめきリゾート雪月花」の定員は45人。「急行電車」は着席定員150人以上、立ち席も含めればもっと多い。急行電車のほうが、乗車前後に食事をしたり、観光施設を巡ったり、宿泊したりする人々を多く集められる。
「雪月花」の乗客が金持ちだからといって、1回の食事で3人前を食べたり、1泊につき3部屋を予約したりはしない。不動産を買ってくれるかもしれないけれど宝くじ並みの期待値だろう。
身も蓋(ふた)もないことを言えば「観光急行」は「薄利多売」という商売の基本を踏まえている。それは同社の収益のためだけではなく、地域経済の活性化にも貢献する。
関連記事
- 鉄道模型は「走らせる」に商機 好調なプラモデル市場、新たに生まれた“レジャー需要”
巣ごもりでプラモデルがブームに。鉄道模型の分野では、走らせる場を提供する「レンタルレイアウト」という業態が増えている。ビジネスとしては、空きビルが出やすい今、さらなる普及の可能性がある。「モノの消費」から「サービスの消費」へのシフトに注目だ。 - 運賃「往復1万円」はアリか? 世界基準で見直す“富士山を登る鉄道”の価値
富士山登山鉄道構想について、運賃収入年間約300億円、運賃は往復1万円という試算が示された。LRTなどが検討されている。現在の富士スバルラインと比べると5倍の運賃はアリなのか。国内外の山岳観光鉄道を見ると、決して高くない。富士山の価値を認識する良いきっかけになる。 - JR九州の新型観光列車「36ぷらす3」の“短所を生かす”工夫 都市間移動を楽しくする仕掛けとは
JR九州の新型観光列車「36ぷらす3」に試乗した。観光列車先駆者である同社の新型車両は、車窓を楽しむ列車ではない。窓が小さく、景色を見せられない分、車内でのおもてなしに力を入れている。観光都市間を移動する空間を楽しくする、これまでとは違う列車だ。 - 観光列車は“ミッドレンジ価格帯”の時代に? 新登場「WEST EXPRESS 銀河」「36ぷらす3」の戦略
JR西日本は夜行観光列車「WEST EXPRESS 銀河」の運行を開始、JR九州も昼行観光列車「36ぷらす3」を運行開始予定だ。それぞれに旅客をひきつける特長がある。価格帯はミッドレンジ。ローエンドの価格の観光列車が多い中、中価格帯の試金石となりそうだ。 - ローカル鉄道40社を訪ねる「鉄印帳」が大ヒット 「集めたい」心を捉える仕掛け
第三セクター鉄道40社が参加する「鉄印帳」が好調だ。初版は各社ですぐに完売した。「Go To トラベルキャンペーン」よりも旅人の背中を押す仕掛けだ。鉄道では“集める”イベントが多く、人気も高い。成功する施策は、趣味の本質を捉えている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.