“鉄道観光ビジネス”再起動、失われた2年間をどう取り戻すのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/10 ページ)
沖縄県を除く緊急事態宣言解除、新型コロナウイルスワクチン接種の進ちょくを見越して、鉄道旅行ビジネスが活気づいてきた。冷え切った観光需要を「元通り」にするには、「元通り」の商品展開では足りない。そこで「工場夜景ツアー」「観光急行列車」「おみやげ品割引」など、注目の事例を紹介しつつ、今後の新施策に期待したい。
JR東海「ずらし旅」第2弾は「冷やし旅」、「○○し旅」シリーズ化の予感
6月21日、JR東海は「あいち冷やし旅キャンペーン」を7月から展開すると発表した。酷暑で知られる愛知県で涼しいスポットを巡る旅を提案する。詳細は、別記事「見据える先はジブリパーク〜 猛暑の愛知で冷やし旅? コロナ影響続くJR東海「奇策」の狙い」に譲るとして、このキャンペーンの前哨戦として2020年7月から展開している「ずらし旅」がある。「冷やし旅」の名づけは「ずらし旅」の語呂を踏まえたといえる。
すでに語り尽くされているけれども、新型コロナウイルスの影響で東海道新幹線は大打撃を受けた。旅行需要の減退はもちろんのこと、ビジネス需要の消失が手痛い。出張が抑制され、オンライン会議、リモートワークの普及など、移動需要が消えた。そこで生み出された企画が「ずらし旅」だった。東海道新幹線の販売促進として、観光旅行需要に真剣に向き合った施策だ。
東海道新幹線はビジネス需要が多く、近年の営業施策は「エクスプレス予約」などのリピーター獲得だった。もちろん旅行需要は認識していただろうけれども、京都という最上級の観光都市への需要が大きく、テコ入れする必要もほとんどない。
関連会社のJR東海ツアーズと組んで「ぷらっとこだま」という格安クーポンを販売しているけれども、これはどちらかといえば「ビジネス客で混雑する“のぞみ”を避けて“こだま”に乗ってほしい」という施策でもある。
関連記事
- 鉄道模型は「走らせる」に商機 好調なプラモデル市場、新たに生まれた“レジャー需要”
巣ごもりでプラモデルがブームに。鉄道模型の分野では、走らせる場を提供する「レンタルレイアウト」という業態が増えている。ビジネスとしては、空きビルが出やすい今、さらなる普及の可能性がある。「モノの消費」から「サービスの消費」へのシフトに注目だ。 - 運賃「往復1万円」はアリか? 世界基準で見直す“富士山を登る鉄道”の価値
富士山登山鉄道構想について、運賃収入年間約300億円、運賃は往復1万円という試算が示された。LRTなどが検討されている。現在の富士スバルラインと比べると5倍の運賃はアリなのか。国内外の山岳観光鉄道を見ると、決して高くない。富士山の価値を認識する良いきっかけになる。 - JR九州の新型観光列車「36ぷらす3」の“短所を生かす”工夫 都市間移動を楽しくする仕掛けとは
JR九州の新型観光列車「36ぷらす3」に試乗した。観光列車先駆者である同社の新型車両は、車窓を楽しむ列車ではない。窓が小さく、景色を見せられない分、車内でのおもてなしに力を入れている。観光都市間を移動する空間を楽しくする、これまでとは違う列車だ。 - 観光列車は“ミッドレンジ価格帯”の時代に? 新登場「WEST EXPRESS 銀河」「36ぷらす3」の戦略
JR西日本は夜行観光列車「WEST EXPRESS 銀河」の運行を開始、JR九州も昼行観光列車「36ぷらす3」を運行開始予定だ。それぞれに旅客をひきつける特長がある。価格帯はミッドレンジ。ローエンドの価格の観光列車が多い中、中価格帯の試金石となりそうだ。 - ローカル鉄道40社を訪ねる「鉄印帳」が大ヒット 「集めたい」心を捉える仕掛け
第三セクター鉄道40社が参加する「鉄印帳」が好調だ。初版は各社ですぐに完売した。「Go To トラベルキャンペーン」よりも旅人の背中を押す仕掛けだ。鉄道では“集める”イベントが多く、人気も高い。成功する施策は、趣味の本質を捉えている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.