“鉄道観光ビジネス”再起動、失われた2年間をどう取り戻すのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(7/10 ページ)
沖縄県を除く緊急事態宣言解除、新型コロナウイルスワクチン接種の進ちょくを見越して、鉄道旅行ビジネスが活気づいてきた。冷え切った観光需要を「元通り」にするには、「元通り」の商品展開では足りない。そこで「工場夜景ツアー」「観光急行列車」「おみやげ品割引」など、注目の事例を紹介しつつ、今後の新施策に期待したい。
JR東日本、「ひみつの平日パス」のひみつは「あのきっぷと同じ」
ネーミングに知恵を絞った商品はJR東日本にもある。「ひみつの平日パス」だ。6月24日に「JR 東日本は混雑を避けた平日の旅や移動を応援します!」(PDF)と題した広報資料を公開した。
その筆頭が平日限定のおトクなきっぷ「ひみつの平日パス」だ。「ひみつ」は「秘密」ではなく「避・密」「非・密」を意味するというけれど、「秘密」とかけて気を引く名前だ。発表からしばらくは、紹介サイトも「まだひみつだよ」だった。最近流行りの「あざとカワイイ」というやつだ。
「ひみつの平日パス」は首都圏の主なJR区間を乗り降り自由なフリーパスだ。りんかい線(東京臨海高速鉄道)と東京モノレールも含まれる。東海道新幹線はJR東海区間だから対象外となるけれど、東北新幹線の東京〜小山間、上越新幹線の大宮〜本庄早稲田間は別途新幹線特急券を購入すれば乗車可能。在来線特急も特急券を購入すれば乗車可能となっている。料金は大人2720円、小児1360円。電車に乗って自由気ままに日帰り旅をしたい人にとって、ありがたいきっぷである。
しかし、利用可能範囲に見覚えがある。実はこのきっぷ、主に土休日に販売している「休日おでかけパス」とフリーエリアが全く同じ。別途特急券やグリーン券を買えば特急、グリーン車に乗れるという仕組みも同じ。料金も同じ。販売期間は21年7月1日〜19日(第1期)と21年8月1日〜9月30日(第2期)。要するに「休日おでかけパスの平日版」だ。ただし「休日おでかけパス」にはない「駅レンタカー割り引き(トレン太)」に対応する。
簡単に説明するならば「休日おでかけパスの平日版を売ります」で済む話だ。しかしそれは新しいきっぷの紹介であって、販促ではない。休日おでかけパスは通年販売だけど、平日版は期間限定だから、新しい名前を付けないと通年販売と思われそうだ。そこで新しい名前を付けた。しかも「ひみつ」という思わせぶりな言葉を添えた。
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