最長2年、勉学のために休職できる 社員の学び直しを支援する、ヤフーの人事制度(2/2 ページ)
社会人が高等教育機関で学ぶ1つの足かせになっているのは、学びというものに対する会社、特に現場の上司らの無理解である。会社として全面的に社員の学びを支援しているのが、ヤフーだ。
岸本氏は、「社員の自律的な学びを支援するため」だという。
「これらの制度をつくったのは、前社長の宮坂学の時代です。宮坂が繰り返し言っていたのは、ヤフーにとって事業目標の達成は大事なことだが、社員は会社のためだけに生きているわけではなく、自分の人生をいかに生きるか、自分の時間を何に投資するかを全員に考えてほしいということでした。同時に会社としては、社員の成長を支援しなければ、人的資本は確実に目減りしていきます。そのため、1on1を徹底したり、社員の学びの選択肢を増やし、学びたいという意思があれば学べるというメッセージを出すためにもさまざまな制度を用意したりしたのです」(岸本氏)
一方、会社の制度はあっても現場の上司からの理解が得られなければ、学び続けるのは難しい。特に博士課程を仕事と両立しながら修了するのは、並大抵のことではないはずだ。
「上司の理解を得られるような仕組みづくりもしています。いずれの制度も志望書を書いたうえで、上司の推薦状が必要になります。その段階で上司の理解を得るために、きちんとコミュニケーションをとってもらいます。最終の審査では当社の技術トップから会社に貢献できる研究であると承認を取りますから、それは会社の公式の承認であることを理解し、仕事のアサインなどを配慮してくださいとお願いしています」(岸本氏)
社員が自分の時間を創造的に使うことを意識
制度を活用し、学んでいる人の存在がほかの社員に及ぼす影響も見逃せない。「1つは会社が学びを支援してくれることの周知、もう1つは意欲の喚起があります。学んできた人が会社に戻り、高まった視座や広がった視野を社内に伝えてくれることで、キャリアに対して短期的な視点に陥ってしまい、自らの仕事に限界を感じている人への大きな刺激にもなります」(岸本氏)
実は、岸本氏はこれらの制度は利用していないが、働きながら自ら大学院のMBAコースで学んでいる。本部長という多忙な身でありながら、仕事と学びを両立するそのありようは、同社の自律的な学びを支援するカルチャーが機能している証左でもあろう。「私だけでなく、社員それぞれが自分の時間をいかに創造的に使うかということに意識を向けるようになっていると思います」(岸本氏)
同時に、「社内への知の還流というメリットもある」と岸本氏は強調する。ヤフーにも当然、先端技術研究に取り組むR&D部門はあるが、それらの多くはいかに新しい技術をサービスに適用していくかという応用研究である。「大学院で基礎研究に取り組んでもらい、その知見を社内で生かしてもらうことに大きな意味があると考えています」(岸本氏)
本記事は『Works』166号(2021年6月発行)「学ぶ力・学び続ける力をいかに高めるか」より「action7 学び直し支援の人事制度を導入する」を一部編集の上、転載したものです。
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