定期代が上がる!? 鉄道の“変動運賃制度”が検討開始、利用者負担は:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/6 ページ)
鉄道で「変動運賃制度」の検討が開始された。そもそも、通勤通学定期券によるボリュームディスカウントは必要だったのか。鉄道会社の費用と収益のバランスが、コロナ禍による乗客減少で崩れてしまったいま、改めて考えてみたい。
鉄道事業にボリュームディスカウントは不要だった?
ボリュームディスカウント、つまり安い運賃で利益を出すには、常に乗車率200%のギュウギュウ詰めで走らせたい。列車を運行するコストは一定だから、1本の列車にたくさん乗客を乗せた方が利益は高い。駅には次の列車に乗る客がたくさん待っていたほうがいい。実際、戦後の高度成長期はこの状態だった。しかし鉄道側の設備が追いつかず、利用者の罵声が飛び交い暴動も起きた。
そこで国は混雑緩和を指導し「乗車率を下げろ」と要請した。そのために鉄道事業者は1つの列車の車両数を増やし、駅のプラットホームを長くし、列車の運行本数を増やし、留置線を拡張しなくてはいけない。しかも1列車当たりの乗客が減り売り上げは下がる。
それでも鉄道事業者が混雑緩和を達成できた理由は、費用と収益のバランスをギリギリで釣り合わせられ、その状態でも利益が確保できたからだ。
1列車あたりの乗客数が減っても、運行頻度を高めれば通勤輸送数は維持できる。通勤輸送数の維持は鉄道だけではなく、沿線で展開する不動産、小売、レジャービジネスの顧客確保にもつながるからだ。
ところが、新型コロナウイルスの影響で通勤通学客が大幅に減った。お得意様を失った鉄道事業者から「もうお得意様割引は止めたい」「むしろ値上げしたい」という声が上がった。
お得意様がたくさん乗ってくれるから設備投資を続けてきたけれど、肝心のお得意様がいなくなれば、これらの設備の維持費がかさむ。さらなる拡張のために使った建設費も回収できない。収支のバランスが崩れた。
消費者物価指数とJR東日本の11キロ区分の定期運賃を比較した。国鉄時代は再三の値上げでひんしゅくを買ったけれども、JR東日本になってからは当時の国鉄時代の運賃を継続し、消費税転嫁以外の値上げをしていない(総務省統計局「消費者物価指数(CPI)時系列データ」、時刻表運賃などを元に筆者作成)
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