高速道路の最高速度が120キロなのに、それ以上にクルマのスピードが出る理由:高根英幸 「クルマのミライ」(2/4 ページ)
国産車は取り決めで時速180キロでスピードリミッターが働くようになっている。しかし最近引き上げられたとはいえ、それでも日本の高速道路の最高速度は時速120キロが上限だ。どうしてスピードリミッターの作動は180キロなのだろうか? そう思うドライバーは少なくないようだ。
180キロの速度設定の根拠は本当なのか
国産車の最高速度180キロを上限とする根拠は、当時登り勾配6%の登坂路を100キロで走行する性能を確保するには、平地では180キロの最高速度を出せる性能が必要というものだ。
当時の証言からもこの説が有力だが、筆者はこの根拠に少々首を傾げている。というのもスピードリミッターはあくまで速度の制限であり、登坂性能とは直接関係ないからだ。エンジン性能や減速比で、登坂性能を確保して平地での最高速度180キロに相当するのであれば、その動力性能のまま150キロや120キロでスピードリミッターを設定しても、登坂性能にはまったく影響を及ぼさない。
これは筆者の推測だが、当時の自動車メーカーの担当者は、運輸省(現在の国土交通省)の官僚にもっともらしい理由として登坂性能を挙げ、180キロまでの動力性能を確保しようとしたのではないだろうか。当時の自動車メーカーには、気概や情熱を持っていた人間が多く、自動車メーカーのエンジニアたちは日本の技術を向上させて、海外メーカーに追い付こうと必死でクルマづくりを行っていたから、高速性能は何とか確保したかったはずだ。
日本の自動車メーカーは、かつてお上の意向に対し反逆の狼煙(のろし)を上げたことが何度かあった。例えば60年代初め、当時の日本政府が国際的な競争力を高めるべく自動車メーカーを制限して2輪メーカーの4輪業界への進出を止めようとしたことがあった。そこでホンダはF1GPに参戦して勝利することにより、技術をアピールして世界にその名を響かせることで、4輪への進出を認めさせようとした(結果としてホンダの活躍とは関係なく、自動車メーカーを3つに再編する案は廃止された)。
マツダがロータリーエンジンを搭載したコスモスポーツを開発、発売したのも、やはり他メーカーと合併させようとした政府の思惑から逃れるための抵抗だった。
クルマの性能には余裕がなければ、走行中の安定性を高めることはできない。100キロ+アルファの速度で外乱にも負けない直進安定性を確保するためには、180キロの最高速度は必要だったのだろう。
さらに軽自動車を除けば、ほとんどのクルマは輸出も視野に入れて開発されている。そのため高速性能を確保することは、海外のライバルメーカーとの販売競争を繰り広げるにあたって、絶対に必要な要素だったのである。
それでも開発後の日本仕様にのみスピードリミッターを低く設定すればいいのでは、というふうに考えることもできる。そのあたりは既得権益ではないが、180キロまで認められた最高速度を放棄することなく、クルマの安全性能を高めてきた、エンジニアのロマンといってもいいのではないだろうか。
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