儲けることが難しい「五輪ビジネス」に、なぜ日本企業は“お金”を出すのか:スピン経済の歩き方(3/7 ページ)
東京五輪が終わった。「感動をありがとう」といった喜びの声が広まる一方で、複雑な心境の人たちがいる。五輪のスポンサー企業や、五輪経済効果を期待していた業界のみなさんだ。なぜ複雑な心境なのかというと……。
五輪が治安を悪化
これはちょっと考えれば当然だ。「祭り」の前は会場や道路、宿泊施設の建設ラッシュで景気が瞬間風速的に上向くが当然、祭りが終わればその反動で、バブルがはじける。「国のメンツもある、世界から見られて恥ずかしくない施設を」とハコモノをじゃんじゃん建てたはいいが、それが五輪後もお金を生むわけなどなく、ほとんどは廃墟と化す。ビジネスインサイダーの『五輪施設の今がわかる34枚の写真…ベルリンから北京、ロンドン、リオまで』(7月26日)がよくまとめてあるので、ご覧になっていただくといいだろう(参照リンク)。
また、ゴーストタウン化くらいならまだかわいいもので、財政悪化によって、国民の生命や財産が脅かされるパターンも多い。分かりやすいのが、リオデジャネイロだ。
「五輪に向けた多額のインフラ投資により、基礎的財政収支は12年から赤字に転落。長期負債は16年時点で1080億レアル(約3.5兆円)に達した」(日本経済新聞 2018年2月19日)というリオでは、警察官への給料遅配が常態化して、パトカーや警察備品にも金が回らなくなった。殺人件数は12年まで減少していたが、財政難のせいで増加に転じた。五輪が治安を悪化させたのである。
ブラジル国民の貴重な財産も失われてしまった。18年に重要な文化財が多く収められていた国立博物館で火災が発生して、2000万点を超える収蔵品の9割が焼けてしまったのだ。背景にはあるのは、財政難による科学予算費のカットだ。お金がないのでスプリンクラーが設置できず、消火栓も壊れたままで作動しなかったのだ。
これは日本にとっても対岸の火事ではない。世界トップレベルのコロナ対策費を計上しているところに、五輪の巨額損失がオンされるのだ。日本政府が「お金がないのなら刷ればいいじゃない」というMMT理論(自国通貨で借金できる国は、過度のインフレにならない限り、借金が膨れ上がっても問題ないという考え方)に方針転換でもしない限り、増税していくしかないが、日本の政治家は落選が怖いのでそう簡単には増税はできない。そこで代わりに公共サービスを削っていく。庶民の生活に直結しない科学、教育、文化などの予算を削ったり、効率化とかDXとかの名目で、公的機関の人員を減らしていくのである。
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