儲けることが難しい「五輪ビジネス」に、なぜ日本企業は“お金”を出すのか:スピン経済の歩き方(4/7 ページ)
東京五輪が終わった。「感動をありがとう」といった喜びの声が広まる一方で、複雑な心境の人たちがいる。五輪のスポンサー企業や、五輪経済効果を期待していた業界のみなさんだ。なぜ複雑な心境なのかというと……。
なぜ大企業が引っかかったのか
さて、そこで疑問に思うのは、なぜこのような「経済的なメリット」がほとんどない五輪に、数十億円ものスポンサー料を払ったり、「五輪の経済効果でウハウハだ」みたいな設備投資を行ったりしてしまう日本企業がいるのかということだ。
サントリーホールディングスの新波剛史社長が7月20日、CNN Businessの取材に応じて「五輪のパートナーとなることを考えたものの、経済的に割に合わなかった」と述べたように、ちょっと調べれば「投資先」としてうまみがないことは明白だ。なぜそんな怪しい話に、そうそうたる大企業が引っかかったのか。
「アスリートのために、ビジネスを度外視として応援したのだ」という人もいるだろうが、筆者は主に2つの原因があったのではないかと思っている。それは国策と五輪神話だ。
もう忘れている人も多いだろうが、「アベノミクスで日本復活!」と叫んでいた時代、日本政府は20年の東京五輪でホップ、25年の大阪万博でステップ、カジノを含むIRでジャンプ、という日本経済復活シナリオを見込んでいた。
官房長官時代に、二階氏とともにIRをゴリゴリ押していた菅義偉首相は、基本的にこの成長シナリオを踏襲している。要するに、五輪は平和の祭典だという以前に、日本政府がゴリゴリに推進していた国策なのだ。
「2050年カーボンニュートラル宣言」なんて怪しい話に、大手自動車メーカーが右にならえで従って従業員をリストラしていることからも分かるように、国の産業政策に近い大企業は国策には黙って従わないといけない。これと同じ構図で、国策である五輪にカネを突っ込むのは大企業の義務なのだ。
このような国策で渋々カネを出した企業もあれば、心の底から「五輪はもうかる」と信じてカネを出した企業もある。日本では「1964年の東京五輪をきっかけに日本は成長した」という“神話”があるからだ。
ただ、これはまさしく神話レベルの眉唾な話だ。マスコミによる「歴史の改ざん」と言ってもいいかもしれない。
関連記事
- 海外メディアは日本の「コンビニ」をベタ褒めしているが、外国での普及が難しいワケ
東京オリンピックが開催され、選手たちの間で、日本のコンビニや自販機などが話題になっている。海外メディアがベタ褒めして、「五輪レガシー」になりそうなモノはなにか。 - なぜ若者はワクチン接種に消極的なのか 本当の理由と背景
やがて順番が回ってくるワクチン接種に消極的な若者が少なくない。アンケートではその理由はさまざまだが、「絶対接種したくない」という人はむしろ少数で、あいまいなものが少なくない。その本当の理由と背景をみてみると……。 - 7割が「課長」になれない中で、5年後も食っていける人物
「いまの時代、7割は課長になれない」と言われているが、ビジネスパーソンはどのように対応すればいいのか。リクルートでフェローを務められ、その後、中学校の校長を務められた藤原和博さんに聞いた。 - こんなに頑張っているのに、なぜ日本だけGDPが回復しないのか
日本経済の復活がうかがえるような、データがなかなか出てこない。先進国と比べて、GDP増加率は低く、賃金も低い。多くのビジネスパーソンは懸命に働いているのに、なぜパッとしないのか。筆者の窪田氏は「日本社会のシステムがブラック企業化しているから」と見ていて……。 - 「安いニッポン」の本当の恐ろしさとは何か 「貧しくなること」ではない
新聞やテレビなどで「安いニッポン」に関するニュースが増えてきた。「このままでは日本は貧しくなる」といった指摘があるが、本当にそうなのか。筆者の窪田氏はちょっと違う見方をしていて……。 - 登山家・栗城史多さんを「無謀な死」に追い込んだ、取り巻きの罪
登山家の栗城史多さんがエベレスト登頂に挑戦したものの、下山中に死亡した。「ニートのアルピニスト」として売り出し、多くの若者から支持を集めていたが、登山家としての“実力”はどうだったのか。無謀な死に追い込まれた背景を検証すると……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.