儲けることが難しい「五輪ビジネス」に、なぜ日本企業は“お金”を出すのか:スピン経済の歩き方(5/7 ページ)
東京五輪が終わった。「感動をありがとう」といった喜びの声が広まる一方で、複雑な心境の人たちがいる。五輪のスポンサー企業や、五輪経済効果を期待していた業界のみなさんだ。なぜ複雑な心境なのかというと……。
科学的根拠ゼロの精神論
1960年代の日本は高度経済成長期だった。これはよく「日本の技術力のおかげ」「東京五輪をきっかけに日本人が一つになった」みたいな話に持っていかれるが、シンプルに人口増加という科学現象だ。
中国が急速に経済成長していることを、世界のエコノミストたちが「中国の技術力のおかげだ」とか「北京五輪で人民がひとつになった」みたいな情緒的な話で片付けないように、ある程度の技術・教育水準となった国のGDP成長は人口と連動する。60年代の日本も今の中国ほどではないが、国民の生活水準が上がって人口も増えていた。先進国の中では米国に次いで世界第2位の人口大国となった。だから、米国に次いで世界第2位の経済大国となったのだ。
しかし、そんな順風満帆だった日本の成長にブレーキがかかる。そう、東京五輪だ。
60年代に入って順調に成長したGNPが、65年になるとガクンと落ち込んでいわゆる「昭和40年不況」に突入し、さらにそれが証券不況まで引き起こして、企業をバタバタ倒産させてしまうのだ。先ほど見た開催国にほぼ確実に起きる五輪不況は、64年の東京五輪でも起きていたというわけだ。
その後、70年の大阪万博の特需もあってどうにか景気は持ち直したが、人口増加による後押しがあった時代でさえこれだけ経済にダメージを与えたのである。毎年、鳥取県の人口と同じだけの国民が消えていく今の日本で、どれほど深刻なダメージを与えるのかは容易に想像できよう。
残念ながら、日本の学校教育は「経済と人口」の関係を教えない。「日本は神の国なので、戦争に絶対勝ちます」と教えていたころと教育方針が基本的に変わっていないので、「日本が経済発展したのは日本の技術のおかげ」「東京五輪をきっかけに日本人が一つにまとまった」という科学的根拠ゼロの精神論で経済を教えている。
だから、いい歳をこいた大人が真顔で「東京2020で日本経済はさらに成長します」というような世界の現実とかけ離れたお花畑のようなことを言ってしまう。つまり、もうかる見込みのない五輪に対して、数十億円の大金を注ぎ込んでしまったり、ビジネスチャンスと捉えたりするのは、日本の教育のせいでもあるのだ。
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