“昭和モデル”を壊して静岡を変えたい わさび漬け大手・田丸屋本店の意思:地域経済の底力(2/4 ページ)
日本人の食生活の変化、さらには新型コロナウイルスの感染拡大によって、静岡名物の「わさび漬け」は苦境に立たされている。しかし、今こそが変革の時だと、わさび漬けのトップメーカーである田丸屋本店は前を向く。展望を望月啓行社長に聞いた。
原点回帰
では、既存のビジネスモデルをどのように変えていくのか。1つは、ターゲットを団体から個人の観光客へシフトする戦略だ。
すでに県内のDMO(観光地域づくり法人)などと連携を進めている。自社だけではなく、関連団体や他企業とともに、静岡全体で個人の観光客をどう取り込んでいくか知恵を絞る。その中で、田丸屋本店の商品をアピールしていく。
「マスの観光を相手にしたビジネスは数年で終わりを告げると思います。コロナでリセットされたことを良い機会だととらえないといけません。次の観光マーケットをどう獲得していくかがチャレンジです」と望月社長は意気込む。
もう1つが、地元への訴求だ。わさび漬けは静岡発祥であるにもかかわらず、観光土産というイメージが強い。実際、地元の人にとって、わさび漬けは、日常の食卓に必ず並ぶほどのなじみはないようだ。
地味な作業だが、SNSでプロモーションしたり、チラシを配ったりして、地元客にも目を向けてもらえるよう、原点回帰を図る。
「土産店は、基本的に商品が過剰包装で、普段使いしにくいです。そこを見直して、簡易包装の商品も並べるなど工夫しなくてはなりません。観光客相手の土産屋ではなく、わさびの専門店として、地元の人にも足を運んでもらえるようにしたい」
実際、田丸屋本店では、わさび漬けだけでなく、ねりわさびやドレッシング、ふりかけ、菓子類など、わさびを使った幅広い商品ラインアップをそろえている。
店舗の改革についてはこれからだ。ただ、以前から地元向けに取り組んでいることもある。工場で年に一度開かれる感謝祭は、わさび漬け作りの体験教室を開いたり、工場内を見学できるようにしたりしている。縁日のような出店もある。また、日ごろから小学生などに課外授業をするなど、わさびにもっと親しみを持ってもらう広報活動にも力を入れている。
「わさびの代表メーカーと呼ばれるからには、わさびマーケットが広がるような取り組みをしなければなりません。これは自分たちのためだけでなく、地域の産業にも関わってくるからです」と望月社長は力を込める。
関連記事
- リニアを阻む静岡県が知られたくない「田代ダム」の不都合な真実
静岡県が大井川の減水問題などを理由に、リニア中央新幹線の建設工事に「待った」をかけ続ける一方で、「黙して語らない」大量の水がある。静岡県の地元マスコミも触れられない「田代ダム」の不都合な真実を追った――。 - 【独占】「ミニ四駆」の生みの親 タミヤ社長が語るプラモデルの未来
ミニ四駆の生みの親、タミヤの田宮俊作社長に、プラモデルの現状、そして令和時代を迎えた今後の在り方について語ってもらった――。 - 創業以来初の「うなぎパイ」生産休止にもめげず、春華堂がコロナでつかんだ“良縁”
「夜のお菓子」で知られる静岡のお土産品、春華堂の「うなぎパイ」が新型コロナウイルスの影響をまともに受け、一時は生産休止に追い込まれた。そこからの立て直しを図る中で、新たな付き合いも生まれたと山崎貴裕社長は語る。その取り組みを追った。 - 50億円を投じてでも、新施設で「うなぎパイ」の思いを春華堂が再現したかった理由
今年4月、春華堂が浜松市内にオープンした複合施設「SWEETS BANK」は、コロナ禍にもかかわらず連日のようににぎわいを見せている。ユニークな外観などに目が行きがちだが、この施設には同社の並々ならぬ思いが込められている。 - 100年近くレシピの変わらない「崎陽軒のシウマイ」が今も売れ続ける理由
経営者にとって必要な素質、それは「何を変え、何を変えないか」を見極める力である。崎陽軒の野並直文社長は身をもってこの重大さを学んだ。 - コロナ禍でも不文律破らず 「シウマイ弁当」崎陽軒が堅持するローカルブランド
人の移動を激減させた新型コロナウイルスは、鉄道や駅をビジネスの主戦場とする企業に計り知れないダメージを与えた。横浜名物「シウマイ弁当」を製造・販売する崎陽軒もその煽りをまともに受け、2020年度は大きく沈んだ。しかし、野並直文社長は躊躇(ちゅうちょ)することなく反転攻勢をかける。そこには「横浜のために」という強い信念がある。 - 借金100億円をゼロにした崎陽軒・野並直文社長 横浜名物「シウマイ」を救った“2つの変革”とは?
バブル崩壊直後の1991年に崎陽軒の経営トップとなった野並直文社長は、いきなり倒産の危機に直面する。下降を続ける売り上げや、大規模な設備投資などによって借金は100億円を超えた。そこからどのように立て直しを図ったのだろうか。 - 神奈川県の住みここちランキング 3位「横浜市青葉区」、2位「横浜市西区」、1位は?
神奈川県の「住みここち(自治体)ランキング」。1位は? - 神奈川県の住みここちランキング 2位「葉山」、3位「横浜市青葉区」を抑えて1位となったのは?
神奈川県の住みここちランキングの結果は? - 午後7時閉店でも店長年収1000万円超え! 愛知県「地元密着スーパー」絶好調の秘密
愛知県東三河地方だけに5店舗しか展開していない「絶好調」のスーパーがある。「社員第一主義」を掲げ午後7時には閉店しているのに、店長の年収は1000万円を超える。その秘密に迫った。 - お金なし、知名度なし、人気生物なし 三重苦の弱小水族館に大行列ができるワケ
休日には入場待ちの行列ができ、入館者数の前年比増を毎月達成している水族館が、人口8万人ほどの愛知県蒲郡市にある。その秘密に迫った。 - 水族館の館長さんが『うんこ漢字ドリル』に感化されたら、こんな商品が生まれました
休日には入場待ちの行列ができ、入館者数の前年比増を毎月達成している水族館が、人口8万人ほどの愛知県蒲郡市にある。飼育員たちのチームワークと仕事観に迫り、組織活性化のヒントを探る。 - フリーアドレスはもう古い 働き方を根本から変える「ABW」の破壊力
欧米の企業が相次いで「アクティビティー・ベースド・ワーキング(ABW : Activity Based Working)」という勤務形態を導入している。簡単にいうと、仕事の内容に合わせて働く場所を選ぶ働き方だ。ABWの創始者であるオランダのコンサルティング会社のマネジャーに、日本企業が働き方を変えて生産性を高めるためのヒントを聞いた。 - ガス会社勤務だった女性が「世界最大級のデジタルコンテンツ会社」を率いるまで
完璧な人間はいない――。だが、仕事も私生活も充実させ、鮮やかにキャリアを築く「女性リーダー」は確実に増えてきた。企業社会の第一線で活躍する女性たちの素顔に迫り、「女性活躍」のリアルを探る。 - 「最近の若い奴は」と言う管理職は仕事をしていない――『ジャンプ』伝説の編集長が考える組織論
『ドラゴンボール』の作者・鳥山明を発掘したのは『週刊少年ジャンプ』の元編集長である鳥嶋和彦さんだ。漫画界で“伝説の編集者”と呼ばれる鳥嶋さん。今回は白泉社の社長としていかなる人材育成をしてきたのかを聞き、鳥嶋さんの組織論に迫った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.