『文春』と『新潮』が中づり広告から撤退、それでも車内広告に未来はある:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/7 ページ)
「週刊文春と週刊新潮が中づり広告を終了する」と8月17日報じられた。電車で中づりで政治や芸能の旬な話題がひと目で分かったものだが、スマートフォンの普及で下を向く人が増えた。確かに大手2社の撤退は転機になるだろう。しかし、中づり広告は廃れるかといえば、そうでもなさそうだ。
ニュースメディアは2021年8月17日、「週刊文春と週刊新潮が中づり広告を終了する」と報じた。『週刊文春』は8月26日号の広告が最後。『週刊新潮』は9月末までとのこと。
電車の中づり広告は日本独特の文化だ。海外の地下鉄にもあるというけれど、天井にズラリと並ぶ様子はにぎやかで、漁港の大漁旗や歌舞伎の幟旗(のぼりばた)に通じる。なぜ日本だけ流行ったかといえば、中づり広告の発案者が阪急グループ創始者、小林一三だからである。
鉄道と沿線開発を結びつけ、生活の向上とビジネスチャンスを両立させた小林の手法は、日本の鉄道ビジネスのお手本となった。中づり広告も例外ではなく、日本の鉄道ビジネスと同じくらい歴史がある。
ところが、中づりの広告の発祥となった阪急電鉄で掲出を「ご遠慮いただいている」分野がある。週刊誌だ。阪急電鉄は伝統的に週刊誌の中づり広告を掲載していない。広告業界ではよく知られている話だ。理由は「検閲したくないから」。
雑誌広告の中には、鉄道利用者にとって不快な内容が含まれる場合がある。しかしお金をいただくものについて内容ひとつひとつをチェックしたくない。だから雑誌広告そのものを掲載しない(詳細は、筆者記事参照)。
阪急グループを除けば、週刊誌の中づり広告は車内広告の代表的な存在だった。電車に乗って週刊誌の広告を見れば、政治や芸能の旬な話題がひと目で分かった。しかし、スマートフォンの普及によって、車内では下を向く人が増えた。次第に中づり広告の注目度は下がっただろう。
その予想を裏付けるように中づり広告が終わる。一つの文化が終わったような寂しさを感じる。そして「そういえば、週刊誌の中づり広告を最後に見たのはいつだっけ」とも思う。
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