カプセルを大胆リノベーション! カプセルホテルの“安心お宿”がコロナ禍で打ち出す“秘策”:瀧澤信秋「ホテルの深層」(5/5 ページ)
筆者が取材を続けてきた“カプセルホテルのトップランナー”といわれる事業者にフォーカス。アフターコロナに向けても新たな境地を切り開きつつあるリアルな現場について、これまでの取材の総括も含めレポートしたい。
カプセルホテルはどこへ向かっていくのか
宿泊業へ参入する時、カプセルホテルはハードルが低いといわれてきた。イニシャルコストの低さ、施設の条件、開業までの期間、その後のコンバージョンなども通常のホテルより秀でている。それ故に撤退のスピードも早く、コロナ禍でも見切りをつける事業者は多かった。
一方で、底堅い需要もある業態であることは、この時期にカプセルホテルを利用してみると実感する部分だ。
運営側がゲストに寄り添うスタンスは特徴的であり、リアルではディスタンスを保ちつつも、パブリックエリアへの滞在が基本という中にあって、個室にこもるホテルと比較して、ゲストとスタッフのその距離感は近い。コロナ禍を通して、個室を提供するホテルにはないカプセルホテルならではの文化とも言えようか。
収束の気配が見えないコロナ禍ではあるものの、運営者のアイデアやアプローチは、カプセルホテルが“安価で気軽な地元密着の宿泊施設”であるとの基本をあらためて教えてくれた。それは、アフターコロナにおいて最も尊ばれるカプセルホテルのアイデンティティーとなるだろう。
未知の感染症への恐怖ばかりがクローズアップされ、ソーシャルディスタンスをはじめとした新たな生活様式を人々に植え付けている。他方、人々の心理に“囲い”を作ったのもまたコロナ禍だ。ドアがなく鍵のかからないカプセルホテルから、アフターコロナに向けたどんなニューノーマルが生まれるのか引き続き注視していきたい。
著者プロフィール
瀧澤信秋(たきざわ のぶあき/ホテル評論家 旅行作家)
一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。
日本を代表するホテル評論家として利用者目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。その忌憚なきホテル評論には定評がある。評論対象は宿泊施設が提供するサービスという視座から、ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、旅館、簡易宿所、レジャー(ラブ)ホテルなど多業態に渡る。テレビやラジオ、雑誌、新聞等メディアでの存在感も際立ち、膨大な宿泊経験という徹底した現場主義からの知見にポジティブ情報ばかりではなく、課題や問題点も指摘できる日本唯一のホテル評論家としてメディアからの信頼は厚い。
著書に「365日365ホテル」(マガジンハウス)、「最強のホテル100」(イースト・プレス)、「辛口評論家、星野リゾートへ泊まってみた」(光文社新書)などがある。
関連記事
- バブルの名残 温泉街の「大型施設」が廃墟化 鬼怒川と草津の違いと「大江戸温泉物語」の戦略
コロナ禍がもたらす温泉街への影響は甚大だが、「温泉の魅力」として考えさせられるのが“街づくり”という点だ。筆者は「施設そのもので集客できる強い宿は例外的で、温泉地の魅力自体が集客を左右する」と指摘する。 - なぜサントリーは、抹茶ラテを「伊右衛門」ではなく「クラフトボス」から発売するのか
サントリー食品インターナショナルが展開する「クラフトボス」に新たなラインアップが加わる。8月17日に発売する「抹茶ラテ」だ。 - コロナ禍でも黒字のアパホテル 常識破壊の”強さ”と悲願の10万室が生んだ“功罪”
アパホテルが2021年5月10日に創業50周年を迎えた。いまや日本を代表するホテルブランドとして圧倒的な知名度を誇る同社。コロナ禍の中、2020年11月期連結決算で黒字を確保したという発表は、ホテル評論家としても衝撃的だったと筆者は語る。 - 爆増した3万ブース超のカプセルホテル “ブーム終焉”の理由はコロナ禍だけじゃなかった
近年、訪日外国人旅行者の激増により宿泊施設不足が露呈、数多くのホテルなどが誕生した。施設数で群を抜いていたカテゴリーが「簡易宿所」といわれる施設で、その代表格が「カプセルホテル」や「ホステル」と呼ばれる宿泊施設だ。 - 寮発祥のドーミーインが「大浴場」をどんどん展開するワケ 手掛ける「和風ビジネスホテル」とは?
「宿泊施設のカテゴリーボーダーレス化」が進んでいるが、ドーミーインのサブブランド「御宿 野乃」もそのひとつだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.