「振り回されたのはGoToに似ている」との声も 東京五輪はホテルに恩恵をもたらしたのか:瀧澤信秋「ホテルの深層」(4/6 ページ)
五輪開催で当初は不足問題も浮上したホテル業界。それが新型コロナウイルス感染拡大で一転、一気にネガティブな空気が支配した。多くの競技が無観客開催となったが、五輪はホテルに恩恵をもたらしたのだろうか。
五輪で“助かったホテル”と“恩恵がなかったホテル”の違い
一方「失敗した!」 と悔しがるのは、とある独立系ビジネスホテルの営業担当者。同氏は「関係者宿泊のホテル営業と情報交換したが、みなさんウハウハだった」という。「リアルエージェントが元締めで割り振られた」「リアルエージェントとの相応なチャネルが必要であった」と話す。日ごろから大手旅行エージェントとの付き合いが大切だったということだろうか。
いずれにしても無観客ゆえに、本来あったであろう一般の需要が皆無だったことは間違いなく、五輪で“助かったホテル”“恩恵がなかったホテル”は関係者の受け入れ有無で明暗が分かれたようだ。
恩恵があったホテルでは、どのくらい稼働率や単価の押し上げ効果があったのか。ホテル業界の市場データを提供する英・STRによると、夏季五輪が再スケジュールされた7月の東京のホテル稼働率は47.2%となり、20年2月以来の月間レベルになったという。
さらに細かく見ると、開会式の前夜(7月22日)が60.5%、23日当日の夜が60.6%に達したといい、稼働率60%超えはGoToトラベルキャンペーン中であった20年11月21日以来とのこと。一方、会期中には稼働率は低下、閉会式の夜(8月8日)には45.4%、翌日の夜(8月9日)には29.2%に減少したというデータを発表した。
出所:STR: Olympics Lifted Tokyo Hotel Occupancy to 17-Month High Hotel Occupancy Lessened Over Duration of Olympic Games
調査対象ホテルの立地やカテゴリー(分母)などにより異なる結果も出るだろうが、筆者が確認したいくつかの受け入れホテルでは10〜15%の稼働率上昇という結果であった。
他方、客室単価の押し上げはどうだったであろうか。取材した複数のホテル(宿泊特化タイプが中心)の傾向を大まかに見てみると、(契約時の金額は明示されなかったが)いずれにしても6月と比較して2000〜3000円ほどの上昇が見られた。
関連記事
- バブルの名残 温泉街の「大型施設」が廃墟化 鬼怒川と草津の違いと「大江戸温泉物語」の戦略
コロナ禍がもたらす温泉街への影響は甚大だが、「温泉の魅力」として考えさせられるのが“街づくり”という点だ。筆者は「施設そのもので集客できる強い宿は例外的で、温泉地の魅力自体が集客を左右する」と指摘する。 - コロナ禍でも黒字のアパホテル 常識破壊の”強さ”と悲願の10万室が生んだ“功罪”
アパホテルが2021年5月10日に創業50周年を迎えた。いまや日本を代表するホテルブランドとして圧倒的な知名度を誇る同社。コロナ禍の中、2020年11月期連結決算で黒字を確保したという発表は、ホテル評論家としても衝撃的だったと筆者は語る。 - 国内に75万室! 供給過剰のビジネスホテル インバウンド消失で生き残る策はあるのか
ホテルが供給過剰? コロナ禍でインバウンド消失、国内需要も激減とあっては当然のことと思われるだろう。しかし筆者は、供給過剰というワードは、コロナ禍ではなく“コロナ禍前の状況”を表していると指摘する。 - ドーミーインのこだわりは「大浴場」だけじゃない 店舗数拡大でも維持する「水風呂」と「朝食」の質
共立メンテナンスが運営するビジネスホテル「ドーミーイン」。大浴場のこだわりにとどまらず独自サービスを展開している。 - 1泊20万円超も コロナ禍なのに高級ホテルが続々開業するワケ
宿泊業の経営破綻や開業延期・中止などのニュースが続いているが、新規開業が目立ち鼻息荒いのが“高級”といわれるホテルや旅館だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.