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なぜIPO価格は安すぎるのか? スタートアップ経営者へのアドバイス(4/4 ページ)

8月、公正取引委員会が新規株式公開時に企業が適切に資金調達できているか調査を始めたことが話題を集めている。未上場企業が新規に株式を証券取引所に上場し、投資家に株式を取得してもらう「IPO」は、ベンチャー企業にとって一度きりの重要なイベントでもある。しかし、そこにはさまざまな問題点があると指摘されている。改めて、国内のIPOについて何が問題視されているのか、そして理想的なIPOとはどんなものななぜIPO価格は安すぎるのか?

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理想的なIPOとは?


2020年12月に東証マザーズに上場したプレイドのnote

 理想的なIPOとは一体どのようなものなのだろうか。近年ではfreeeやプレイド、ビジョナルのように、公募時や上場直後から1000億円を超える時価総額を記録するスタートアップ企業も散見される。経営陣にとっては、どうやってIPOをデザインしていくかが、非常に重要なポイントとなる。

 まずは、情報のデリバリー部分を担う証券会社との付き合い方が非常に重要だ。機関投資家は、証券会社から売り込みをされて初めて新たな企業の存在を知ることが多いが、証券会社はオファリングサイズが大きい案件に優先的に取り組む傾向にある。証券会社にとってIPOは手数料ビジネスであるために、上場時の公募金額と売り出し金額を合わせた総額であるオファリングサイズに比例して、手数料も増加するからだ。IPO前からの既存株主や証券会社とコミュニケーションを取りながら、オファリングサイズを調整してプロセスを進める必要がある。

 さらに、ここ数年の間にIPOで成功している企業は、インフォメーションミーティングやロードショーの前に、アンカー投資家(国内外の機関投資家)を想定して、企業のことを深く理解してもらう取り組みを行っている。他にもIPOの戦略実務に長けた既存株主を経営側に迎え入れ、協力体制を構築することで、IPOを成功に導いていけるとも言えそうだ。

 私がIPOにおいて何よりも重要だと感じるのは、IPOや資本政策の本質を理解しているプロフェッショナル人材を役員や株主といった企業の味方につけることだ。例えば、私が経営参画しているミダスキャピタルでは、投資先の事業会社らを「企業群」として捉えている。勉強会などを通じたナレッジのシェアや、関係各所との折衝を含む投資財務プロジェクトへのハンズオン支援などにおいて、プロフェッショナル人材のノウハウが複数企業に生かされていると感じる。

 IPOや資本政策の本質をつかむためには、IPOが経営戦略や投資財務戦略に与える意味を理解し、主体的かつ能動的に、自社の企業価値をプライシングし、社内外のステークホルダーを説得していくことが必要だ。IPOを進めていく上で大切なことは、「主語を自分たち以外にしないこと」。「VCが言っているから」とか「主幹事証券会社に求められたから」ではなく、「自分たちはどうしたいのか?」という視点を忘れずにいることこそが、IPOを成功させるカギなのではないだろうか。

著者:寺田修輔

2009年よりシティグループ証券株式会社にて株式調査業務や財務アドバイザリー業務に従事し、 ディレクターや不動産チームヘッドを歴任。2016年に株式会社じげんに入社し、 取締役執行役員CFOとしてM&Aを中心とする投資戦略、 財務戦略、 経営企画の統括や東証1部への市場変更、コーポレート体制の強化を牽引。20年7月より株式会社ミダスキャピタルに取締役パートナーとして参画。Chartered Financial Analyst(CFA協会認定証券アナリスト)。


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