3年間で大改革の「タイガー」、きっかけは元ソニーの女性役員:家電メーカー進化論(2/7 ページ)
1923年創業で、ステンレスボトルや炊飯器などの多くの製品を手掛けるタイガー魔法瓶。2023年に100周年を控えた18年からは、元ソニーでVAIO事業を立ち上げるなどした浅見彰子氏が、既存事業のほか構造改革や未来のビジョンづくりに取り組む。タイガーが抱えていた課題と施策、そして100周年後の展望などを聞いた。
3年前は「昭和」の価値観と体制のままだったタイガー
土鍋を内釜に採用した炊飯器や、魔法瓶構造による高い保温性が特徴のステンレスボトルを中心に多くの家電製品を手掛けているタイガー。非上場企業のため、決算や詳細な売り上げの推移に関しては公開していないが、近年の社会環境の変化や会社の体制の古さなどにより、抜本的な改革が求められていた。
そんな18年頃、IoT関連の取り組みや新規事業を担当する執行役員として招かれたのが元ソニーの浅見氏だ。
「タイガーに入って驚きました。今はフレックスになっていますが、当時は朝8時に全員集まって体操して朝礼で社訓を唱和している昭和な会社で、経営会議に出ると全員が男性で、正直にいえば『自分で毎日お夕飯を作っているのかな?』と思いました。最初に私が手掛けたのが看板商品である炊飯器です。ご飯を本当に美味しく炊きたいという思いで、毎日キッチンに立つ主婦、ワーキングマザーの目で製品を見直していきました」(浅見氏)
タイガーの炊飯器「<炊きたて>土鍋ご泡火炊き」の特徴の一つでもある、1合だけのごはんを美味しく炊くために使う『一合料亭炊き専用土鍋中ぶた』は、浅見氏が入社から半年間、炊飯器開発担当らと一緒に実験室で実験を重ねて作られたもの。このほかにも、土鍋に5年保証をつけたり、内ぶたを食器洗い乾燥機で洗えるように改良していった。これらはまさに使う人の視点で行った改善だった。
なかでも、土鍋に5年保証を付けるという企画は、当初は社内からの反対もあったという。しかし、過去の土鍋が割れたというクレーム件数を確認し、いけると判断した。
「それまでは、割れたら買い直してくださいというスタンスでした。しかし、私が主婦の立場なら、割れるかもしれない土鍋の炊飯器は買いません。ですが実際には、そんなに簡単には割れないのです。だったら、キッチンに立って毎日、内釜を洗っている立場から、5年保証するメリットの方が大きいと考えて押し通しました」(浅見氏)
小容量が美味しく炊ける中ぶたのある炊飯器は、土鍋の5年保証も加わり大ヒットとなる。こうした成果が評価され、浅見氏は19年4月、同社初の女性取締役に昇格。さらに、既存事業や次の100年に向けた取り組み「NEXT100」なども担当するようになる。
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