「世界一の現場力」を犠牲にする、無責任トップの罪:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/4 ページ)
「工夫してほしいですね、現場で」──というのは、若者向けワクチン接種センターの混乱ぶりを見た小池都知事の言葉だ。現場が必要なリソースにアクセスする権利も、意思決定できる裁量権も与えることなく、現場に責任のみを押し付け犠牲にするような動きが、いたるところで起きている。そんな中、リーダーが自覚すべきこととは──?
なぜ、こんなにも日本のリーダーたちは無責任なのでしょう。
今この時間も、適切な治療が受けられない、「自宅療養」という名の「医療難民」が13万人以上います(1日時点)。それなのに、政治家たちは「ご支援よろしく!」と政局にあけくれている。
東京都のトップに至っては、渋谷に設置された若者ワクチン接種センターの混乱ぶりを見て「密でしたね……工夫してほしいですね、現場で」と、堂々と「現場のせい」にするありさまです。
コロナ禍で起きている全ての問題は、コロナ前の社会に内在していたもので、それが顕在化したにすぎません。「ひとつよろしく!」と、現場任せにするリーダーの無責任っぷりもその一つです。
私は組織のトップは率先垂範であるべきだと常々思っているのですが、残念ながらわが国のリーダーにはそれがありません。そもそもリーダーは、「不測の事態」が起きたときのために存在すると言っても過言ではない。リーダーが意思決定を間違えれば、会社なら潰れるし、社会なら多くの被害者が出ます。
「人間の行動には3つの源泉がある。欲望、感情、そして知識である」というのは哲学者プラトンの言葉ですが、日本のリーダーには意思決定に必要な「感情と知識」が著しく欠如し、欲望だけが勝ってしまっているように思えてなりません。
リーダーが大切にすべき感情とは「現場感覚」であり、知識とは、客観的なデータやさまざまな意見に耳を傾ける誠実さです。なのに、それがないのです。
「やってます感」をアピールするためのいきあたりばったりの対策ばかりが横行し、問題がおこれば「工夫してほしいですね。現場で」と切り捨てる。
現場が必要なリソースにアクセスする権利も、現場が意思決定できる裁量権も与えることなく、ただただ「ひとつよろしく!」と現場任せにする無策を繰り返しています。
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