M&Aの失敗に学べ! 今こそ経営人材の育成に舵を切るタイミング:日本企業に必要なことは(4/5 ページ)
かつて一大イベントだった日本企業のM&A。今では恒常的に行われるようになってきたが失敗も目立つ。20年近くM&Aのアドバイザーとして活躍してきた筆者は、「経営人材の育成」を重視する必要があると考えている。
買った後の問題とは
買った後の経営の問題とは、買収した企業の経営に失敗することだ。買収先の経営陣が面従腹背であった、それを受けて従業員が協力しなくなった、製品やサービスに問題が出て市場での評価が下がった、顧客が離れて赤字に転落したなど、何らかの要因がきっかけで負のスパイラルに入れば、企業価値は短期間で棄損(きそん)してしまう。買収した後の経営統合をしっかり行わないと、社運を賭けたM&Aが悲惨な結果になってしまうのだ。M&Aのアドバイザーは、買収を成立させるまでが仕事で、買収後の経営統合は当事者に任せてきた。しかし、初めてM&Aを初めて行った企業が、独力で十分な経営統合を行うことは非常に難しい。特に海外の場合、商習慣が異なるし、働き方に対する姿勢や考え方も日本人とは相当違う。宗教の影響が大きい国もある。そこに日本式の経営手法を買収翌日から持ち込んでも、破綻することは必然なのだ。その意味で、平成という30年間に積みあがったM&Aの件数は、買収者の失敗と苦労の件数でもあるのだ。
近年、経営統合における失敗の原因が類型化され、それに対する助言提供がM&Aアドバイザリーの一つの領域になってきた。即ち、買収実現のサポートだけではなく、買収後の経営統合も面倒見ましょう、という訳だ。経営統合に関するアドバイスのポイントは多々あるが、買収後のインセンティブ(処遇)の設計、その裏腹としてのガバナンス(企業統治)の設計、そして良好なコミュニケーションの確立というのが主要テーマだ。どれも言うは易く行うに難いものばかりで、だからこそアドバイザーが必要とされるのだ。筆者が所属するファームでも、この領域のアドバイザリーに特に力を入れている。
今後の日本の命運を握る経営人材の育成
最後のコミュニケーションに関しては、アドバイザーは適切な会議体の在り方や、レポーティングの方法・頻度に関しては助言できる。しかしそれを実践するのは、買収先や合弁先に経営者として派遣された者なのである。企業は、顧客、取引先、従業員、株主などさまざまなステークホルダーに相対している。顧客に安い価格での製品を提供したければ、取引先からの仕入れを値切らなくてはならないし、従業員に高い給与を支払えば、株主の配当原資が損なわれる、というようにステークホルダーの利害は互いに相反する。経営者の仕事とは、相反するステークホルダーの利益を最大化することであり、そのためには高いコミュニケーション能力と経験が必要となってくる。もちろん英語の能力は前提条件だ。
それでは日本人にとって、経営に必要な能力を身に付ける機会はどのくらいあるだろうか。サラリーマンの場合、経営職階に就くチャンスは、サラリーマン人生のかなり後半に訪れる。しかもそれは万人にではなく、選ばれし者のみである。つまり経営の経験を十分持たないままに、海外の経営の現場に送り出され、経験不足から買収後の経営統合に支障をきたしている例は少なからず存在するのである。
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