ロードプライシングは成功だったのか? 大幅値上げを目論む首都高速の料金改定案:高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)
渋滞、それも有料道路での渋滞が大嫌いな筆者にとって、オリンピックを機に割増料金が課されていたこの2カ月間は、振り返れば「1000円アップはむしろ割安だったかも」と思わせるような環境だった。しかし、だまされてはいけない。ロードプライシング制の正式導入に向けた実験的な施策なのだ、今回は。効果を認めてしまうと首都高速は「しめしめ」と思って正式導入に向けて動くに違いない。
首都高速はこれからどうあるべきか
首都高速を含む自動車専用道路は、料金プール制と呼ばれる、予め掛かった建設費用を、利用料金で償還していき、借金を払い終えたら料金無料で利用できるようになる仕組みだといわれ続けてきた。しかし高速道路は拡張を続け、そのメンテナンス費用も膨大であるため、現時点で65年まで現在の借金40兆円を支払い続けることになっているらしい。
以前、筆者は首都高速の設計に携わる方に話を聞いたことがあるが、社内の人間でさえ「いつかは無料になるのかなぁ」という返答ぶりで、およそ現実問題として捉えられていない印象を受けた。
たとえ建設費用をすべて償還できたとしても、道路はメンテナンスが必要であるから、その分の費用を料金として徴収し続けることになるのは明白だ。ならば、どうせ無料にならないのであれば、償還期限をもっと長くするなど、利用料金を引き下げる努力すべきではないだろうか。都市高速と高速道路が同一料金というのは、どう考えても割高だ。
そして1回の利用料金が2000円近くになるという値上げ案は、都市高速を身近で便利な道路という感覚から遠ざけることになる。消費者は、値上げ後の首都高速は35キロ以上50キロ未満の利用は避け、渋滞している一般道の区間で首都高速を利用するなど、利用を工夫せざるを得なくなる。
また首都高速は、自動運転にはまったく向いていない自動車専用道路であるから、メンテナンスだけでなく大規模な改修も必要だろう。ホンダ・レジェンドのレベル3自動運転は首都高速にも対応できるようだが、イザという時には運転の主権をドライバーに明け渡すレベル3では逃げ道がある。
筆者は、高速道路の自動運転は当面レベル2で十分だと思っているが、一般道よりも障害が少なく、高速道路よりも高い運転レベルが要求される首都高速でレベル4の自動運転を目指すことが、乗用車における自動運転実用化への道筋ではないだろうか。
その意味でも路車間通信をいち早く導入すべきだろう。そうすれば出口渋滞などに車両の衝突被害軽減ブレーキを連動させて、出口付近での衝突事故を未然に防ぐことが可能になる。
地下トンネル化で日本橋に空を取り戻すというような景観も、日本の首都を駆け巡る高速道路にとっては重要かもしれないが、右車線にICが存在し、一般道へのランプウェイも短いという構造上の問題点も解決する必要がある。
今の構造のまま、渋滞箇所だけを改善し続けるだけでは、都市高速の未来としての魅力に欠ける。クルマだけを進化させて、道路交通を高度化させるのは不可能なのだから、一般道を高度化させる前に、首都高速を高度化させるべきであろう。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。
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