風雲急の新生銀行TOB 金融庁は「モラル欠如」のSBIを認めてよいのか:見過ごせない「事件」とは(2/3 ページ)
SBIホールディングスが開始した、新生銀行へのTOB。地銀再編を巡る大きな動きだが、SBI側が引き起こした「事件」に筆者は着目する。果たしてモラルが欠如した企業に、銀行運営を任せてよいのか。
本年5月、「太陽光発電関連会社社長逮捕」というニュースが報じられました。直接の逮捕容疑は、地方銀行および信用金庫から実態のない架空事業計画で11億円の融資を詐取したとのことでしたが、その裏で東京地検特捜部が動いている巨額詐欺事件があったようです。それは、SBIのグループ企業であるSBIソーシャルレンディング(SBISL)が、この太陽光発電関連会社(T社)に17〜20年の4年間で約380億円を貸し付け、その約半分が使途不明になっているというものです。
ソーシャルレンディングは「融資型のクラウドファンディング」といわれ、インターネット上で資金を借りたい個人や法人と投資家を仲介する金融サービスです。銀行が預金を預かって融資金をするのと同じく、他人の資金を運用に充てる以上、投資先の選定には一定の審査力と公正さ慎重さを要する事業であるわけです。
この使途不明融資事件についてSBIの北尾社長は、T社社長逮捕前である4月28日の決算説明会の段階で、「詐欺師によってたくさんの被害者が出たが、最大の被害者がわれわれだ」とことさら強くいい放っていたのですが、同日公表された第三者委員会の調査報告書からは、SBIの問題姿勢が明るみに出てきたのです。
調査は、SBISLが、T社に投資した資金が目的外に流用されていることに気付きながら、さらに資金を貸し込んでいたという事実を指摘しています。具体的には、20年夏の段階でT社が資金供給を受けながら未着工状態が続いていたプロジェクトが複数存在していることを認知しながら、その後もT社に対して4プロジェクト85億円にも及ぶ新規融資をしていたというのです。
これは明らかな、投資家保護違反であり、融資モラルが欠如しているといわざるを得ません。融資を続けた理由は、SBISLがソーシャルレンディング事業の拡大により株式上場を計画しており、直近で融資実行金額の約4割を占めていたT社向け融資の上乗せ実行が必要不可欠だったというのですから、金融機関として言語道断の一言です(余談ではありますが、筆者はT社社長とビジネス上で面識があるのですが、元銀行員としての感覚から社長の言動に違和感を覚え、早い段階であえて疎遠にする道を選んでいます。そのような経験からも、T社に大きく貸し込んだSBISLには基本的審査力の欠如も強く感じるところです)。
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