風雲急の新生銀行TOB 金融庁は「モラル欠如」のSBIを認めてよいのか:見過ごせない「事件」とは(3/3 ページ)
SBIホールディングスが開始した、新生銀行へのTOB。地銀再編を巡る大きな動きだが、SBI側が引き起こした「事件」に筆者は着目する。果たしてモラルが欠如した企業に、銀行運営を任せてよいのか。
さて、ここで指摘したいのは、SBISLの織田貴行社長(当時)が北尾SBI社長の野村証券時代の後輩であり、その後もソフトバンク、SBIと常に北尾氏と行動を共にしてきた腹心中の腹心であるという点です。グループトップの北尾氏が織田氏との綿密な関係の下でSBISLの上場を指示していたことは間違いなく、SBISLを巡る不祥事はSBIそのものの問題であるといえるのです。
SBISLは6月、本件におけるSBIの審査体制がずさんかつ「事実と異なる説明で投資家を勧誘していた」として金融庁から業務停止命令を受け、SBIは事を封印するかのごとくソーシャルレンディング事業からの撤退を決めました。SBIがその投資金を保障する方向で投資家に被害が及ぶことは避けられてはいるものの、この件は他人の資金を預かる金融機関として由々しき問題であると考えます。金融庁はこの問題を、SBIの業務姿勢や企業風土を、どのように考えているのでしょう。
モラルの欠如した再編でいいのか
新生は確かに長期にわたって経営停滞という状況に甘んじ、公的資金返済に向けて経営権を委ねた外資からも手を引かれており、現状のままでは公的資金返済に万策尽きた状況にあるといえます。そんな状況下で、新しいビジネスモデルを引っ提げて同行の経営革新に乗り出そうという「やり手」の登場は、株主からも歓迎されるものに違いありません。すなわち、このような流れを提案するSBIのTOBは仮に敵対的なものになろうとも、多くの株主がTOB賛成に動いてしかるべきでしょう。しかしそれはあくまでTOB成立後に経営を担う提案主が、一般銀行を経営するに足る信頼のおける存在であるならば、ということが大前提です。
SBISLを巡る一件から見てとれる、金融モラルが欠如している企業グループに新生の経営を委ねていいのかと考えれば、金融の常識から断じて「NO」であると考えます。金融秩序を守る立場の金融庁がなぜ今回、SBIの株式買い増しを認可したのでしょう。SBIの限界地銀救済のバックアップを約してしまったからなのか、あるいは公的資金返済という目先のメリット優先の認可であったのか。後者ではあってほしくはないとは思いますが、既に認可の取り消しは間に合わないことだけは間違いありません。
いずれにせよ、このままSBISLの件が、新生株主によるTOB諾否の判断材料として俎上(そじょう)に乗ることなく進んでしまうこと、すなわち株主に不利益を及ぼす情報が正しく株主間で共有されずに進んでしまうことは、大きな問題であると思います。新生がTOBに賛同しないのならば、SBISLの第三者委員会による調査報告をエビデンスとして「銀行経営にふさわしくない企業グループからのTOB提案である」ことを強く訴えるべきではないかと考えます。このままSBIによる新生へのTOBが成立してしまった場合、地銀再生までもがモラル欠如の利益追求に利用されてしまい、取り返しのつかないことになるのではないかと思うにつけ、空恐ろしい気持ちになるばかりなのです。
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