山口FG「CEO電撃解任」で見えた 地銀改革を阻む金融行政の「置き忘れ荷物」:勃発「山口の変」(1/4 ページ)
「山口の変」が勃発した。多角経営など、地銀改革を進める山口フィナンシャルグループで会長兼CEOが電撃解任された。改革の進む山口FGで何が起こったのか。背景には金融当局の失政も透けて見える。
中国・九州を地盤とする地銀の金融持ち株会社である山口フィナンシャルグループ(山口FG)。同社の新年度における経営体制が承認された、株主総会直後の臨時取締役会において、トップである吉村猛CEO(当時)の解任決議が突如なされるという事態が報じられ、「山口の変」として話題になりました。
山口FGは、2006年に山口銀行ともみじ銀行との経営統合による地方銀行の金融持ち株会社として発足。その後新たに設立した北九州銀行をも傘下に置き、総資産ベースでは地銀第6位となる上位地銀グループを形成しています。
経営陣による解任理由は、「新規事業取り組みに関し吉村氏の独断専行が過ぎる」とのこと。具体的には、18年に業務提携した消費者金融大手アイフルとの個人リテール専門銀行の共同設立を、外資系コンサルタント会社のアドバイザリーの下、水面下で計画。その間、コンサルティング会社の日本法人代表で日銀出身の人物と吉村氏の癒着を示唆する告発文が行内に流れる不穏な動きがある中、吉村氏が今春取締役会で唐突に計画を説明して押し切ろうとしたことで、幹部間での不満が一気に沸き上がったといいます。そんな折、一部メディアがこの内部告発文書の内容を報じたことから、役員会メンバー間で吉村氏に対する不信感が高まり、事前根回しを経て解任決議行動に出たのだといわれています。
報じられた内部告発文書では、コンサルティング会社への多額のコンサル料の支払いや、吉村氏と過去の山口銀行を巡るスキャンダルとの関係、さらには本人の女性スキャンダルまで取り上げられています。文書自体は怪文書レベルといってもよく、「内部告発」というにはあまりに陳腐で下品な内容ではあります。それでも、上記の新規事業を含めて吉村氏の改革路線に疑問を感じくすぶっていた不満分子たちに火をつけるには十分な材料だったのかもしれません。
告発文書における事実関係の真偽のほどは定かではありませんが、山口FGを巡る今回のトップ更迭に至った一連の流れを追ってみると、菅政権も重要視しているいわゆる地銀改革の進め方における地銀ならではの難しさといったことが浮き彫りになってきます。
「地銀改革」を率先してきた吉村氏
吉村CEO解任の一報を聞いたときは、驚き以外の何ものでありませんでした。なぜならば、吉村氏は銀行界では「地銀改革推進派の雄」として知られた経営者であったからです。
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