コロナ禍だけのせいじゃない? 大ピンチの百貨店で「大家」化が進んでいる納得のワケ:小売・流通アナリストの視点(2/4 ページ)
コロナ禍によるさまざまな制約を受け逆境に立つ百貨店。だが、過去数年を見ると、実はコロナ禍に関係なくピンチに陥っていたことが分かる。そんな中、各百貨店は「大家」化を進めている。その理由とは。
百貨店の売場に行くとさまざまな商品が豊富に取りそろえられているが、そのほとんどは百貨店の在庫商品ではない。百貨店の取引先(仕入先)が商品を売場に展示しているのであり、売れたときに初めて百貨店が仕入れて、同時に売り上げを計上する仕組みになっているのだ。この方式では百貨店が在庫リスクを負わず、売れ残れば取引先がその損失を負担する、という百貨店に一方的に有利な取引だといえる。
なぜ、こんな条件を取引先がのんでいるのかといえば、百貨店が「小売の王者」であった時代、商品を売りたければ、百貨店に売場を持つことがそのまま売り上げにつながったからだ。このような取引形態はかつて、ある百貨店アパレルがこの方式を提案して大きな成果を挙げたことから、業界標準として広がったといわれている。
この消化仕入方式は、百貨店市場が拡大している時期こそよかったものの、長期減収トレンドとなると悪循環を生み出した。リスク負担のない百貨店側には商品の目利き力が失われ、取引先側は常に売れ残り分を加味した価格設定や企画となるため、商品のコストパフォーマンスが低下した。このスパイラルを20年も繰り返した百貨店販売額は、コロナ前でもピークの半分にまで落ち込んでいたというわけだ。そこにECシフトの波が押し寄せてきたのであり、コロナに関係なく、体制を大きく変えざるを得なかったのだといえる。
危機を逆手に取った丸井の取り組み
われわれの生活にECが浸透してくると、店舗小売業にとっては売り上げを奪われるのみならず、ショールーミング(店舗がECのショールームとされてしまうこと)という恐ろしいことが起こる。
書籍のようなコンテンツ商品や、家電製品のようにメーカーが機能を担保している商品だと分かりやすいが、リアル店舗で立ち読みをしたり、機能説明を散々聞いたりした上で、最安値(もしくはポイント付与がある)のECサイトで購入する、というのは、今や普通の購買行動になっている。店舗小売業にとっては、冗談ではない悩みの種であるが、こうした状況を止める手段はない。そこを逆手にとったのが、リアル店舗をショールーム化してしまう、丸井の「売らない店」だ。
かつて先端的ファッションを分割払いにして、若者でも入手可能にしたことで、支持を得ながら成長した丸井グループは、14年度から積極的に消化仕入方式の売場をテナント方式へ転換し始め、19年度にはその8割を転換していた。こうして賃料収入をベースに、店舗で販売をしない「売らない店」を標ぼうするようになり、中でもD2C企業のショールームとして場を作ることに踏み切っている。D2C(Direct to Consumer)企業とは、自ら企画、生産した商品を、小売店を介さずECチャネルなどを活用して、消費者とダイレクトにつながって販売していこうとする企業のことだ。
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