コロナ禍だけのせいじゃない? 大ピンチの百貨店で「大家」化が進んでいる納得のワケ:小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)
コロナ禍によるさまざまな制約を受け逆境に立つ百貨店。だが、過去数年を見ると、実はコロナ禍に関係なくピンチに陥っていたことが分かる。そんな中、各百貨店は「大家」化を進めている。その理由とは。
例えば、D2Cのオーダーメイドスーツを販売する企業「FABLIC TOKYO」がマルイに構えるリアル店舗は、説明接客や採寸をするが販売はせず、顧客が買うのはあくまでECサイトを通じて、である。となると、丸井グループには店舗売り上げを通じた収益が入らないことになるが、ショールームとして定額の家賃は確保できる。そして、丸井グループはFABLIC TOKYOに対して投資も行っており、FABLIC TOKYOが成長していくことより、長期的なキャピタルゲインを得られるという仕組みになっている。
加えて、現在の丸井グループは、かつての割賦百貨店時代から積み上げたエポスカードを軸とする金融事業も柱となっている。最先端のD2C企業が集積した商業空間となることで、魅力的なショールームとして集客を強化しながら、その他のテナントなどにおいてクレジットカードなどの金融事業の利用を強化するという目的もあるのだろう。リアル店舗が生み出す収益をサブスク事業として、投資事業、金融事業との3本柱をともに推進する、百貨店の運営としては斬新なやり方といえよう。「売らない店」自体は、既に米国などに存在する手法を援用したものではあるが、国内では最先端ともいえる取り組みであり、定期賃貸借を基本としてどのようなビジネスモデルを構築するかが、百貨店にとっても解の一つとなることは間違いないだろう。
「企業」「消費者」「百貨店」を結ぶエコシステム
多種多様なD2Cショールームのような空間が、リアル店舗の新たな選択肢となるためには、画期的な製品を開発する企業が集まってくる持続的な仕組みが必要となる。そうした仕掛けを持った企業が、新宿マルイ本館などに出店している「b8ta」だ。米国サンフランシスコ発「売ることを主目的としない小売店」のb8taは、個性的なデジタルガジェットやコスメ、食品、アパレル、玩具など幅広い商品を体験できる店舗だ。売ることを主目的としていないため、消費者はプレッシャーを感じることなく、スタッフから説明を受けたりして、体験と発見を楽しんだりできる。出品企業にとっても、一等地に安価で消費者とリアルでの接点の場を持てるというメリットは大きい。
また、b8taでは入店者数、性別、年齢、商品の前を通り過ぎた人の数、商品の前で立ち止まった人数やその時間、商品説明を受けた人の数といった定量的なデータや、スタッフと来店客のコミュニケーションから得られる定性データが得られることから、出品企業はリアル店舗での情報をベースにした先進的なマーケティング展開が可能になる。製品を世に問いたい企業、知りたい消費者、顧客のにぎわいを求める百貨店――これらをつなぐ新たなエコシステムを提供するb8taのようなテナントは、これからの百貨店、商業施設におけるリアル売場の活性化に重要な役割を果たすようになるだろう。
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