「40施設を売却」と報じられたプリンスホテルは“崖っぷち”なのか 現執行役員が語った生き残り策とは:瀧澤信秋「ホテルの深層」(1/4 ページ)
プリンスホテルが進めてきたブランド戦略。3ブランド展開と共に進めたのがエリア体制だ。プリンスホテルの売却で何が変わるのだろうか。
北海道から九州まで計49施設を擁し、国内ホテルの代名詞的な存在である「プリンスホテル」。コロナ禍前の調査では、売上高は2021億円とダントツの1位だった(綜合ユニコム:レジャー産業資料「レジャー&サービス産業総覧2020『企業売上高ランキング』」)。
そんなプリンスホテルだが、2007年から“新生プリンスホテル”として、「ザ・プリンス」「グランドプリンスホテル」「プリンスホテル」の3つにホテル名称を変更。価格帯や用途別にクラス分けし、ブランド全体のボトムアップを図っている。
そして先日、「ザ・プリンス パークタワー東京」などを筆頭に、国内のホテル・レジャー40施設程度を対象とする売却に向けた動きがニュースになった。施設のほとんどを売るというところまで追いつめられていると考える人もいるかもしれないが、果たして実態はどうなのだろうか。後編では、実際のプリンスホテル関係者の声も交え、さらに詳説していく。
エリア体制の功罪
食やデザインの品質改善、ブランド化と共にすすめられたのが“エリア体制”だ。前編(実は3種類ある「プリンスホテル」 売り上げ1位なのに、実態がよく知られていないワケ)で記したように、プリンスホテルでは東京を中心とした首都圏を「東京シティエリア」「東京都市圏エリア」と区分し、それぞれが運営していた施設をエリア分けし、横断的なプリンスブランドとしてイメージを形作っていく試みがなされた。
ホテルごとに運営体制が敷かれていた時代は、“他のプリンスホテルをライバルと捉える”ような風潮もあった。
そんな当時のプリンスホテルに対して「チェーンホテルなのにそんなことでいいのか?」と疑問を抱いたのが武井久昌氏(現プリンスホテル専務執行役員/東京シティエリア統括総支配人兼東京都市圏エリア統括総支配人)だった。
武井氏は2008年にプリンスホテルへ入社、前編で述べたようにちょうど基幹3ブランドの浸透が課題とされていた時期だ。そもそも武井氏は1978年にホテル業界入り、82年(27歳)で東急グループの海外ホテル部門、「パン パシフィック・ホテルズ・アンド・リゾーツ」のハワイアンリージェントホテルに移った。その後は、東急電鉄に転籍してパン パシフィックのホテル事業に28年関わり、2005年からは副社長として運営、開発全般を担ってきたという海外畑が長いホテルマンだ。
日本のホテルを「グローバルスタンダードという観点から変革していきたい」という思いを抱きつつプリンスホテルに入ったという武井氏であったが、先述した食・デザインの品質改善と共にまず取り組んだ課題が「エリア化」であった。それは、チェーンとしての共通項をどう出したらいいのかという問いでもあるだろう。
「特徴の無いホテルがまとまってもいいチェーンにならない」「プリンスホテルのようなホテルは、ひとつひとつのホテルの個性がまとまって、どういう共通項を出すのかが重要」と考えたという。そのために、まずホテルごとの役割分担をはっきりさせた。役割分担が明確になるとターゲットとなる顧客層もはっきりし、客層が明らかに変わってきたのだ。
とはいえ、エリア体制にとってホテル相互の協力体制は肝要であるものの、一歩間違えば仲良しクラブになってしまう。武井氏はエリアごとに競わせることも重視した。成績が優秀なホテルは半期毎の総支配人会議で表彰を受ける。かつては競いあったホテルの支配人同士が、優秀な業績評価を受け満面の笑みで乾杯していた光景がいまでも印象に残っていると武井氏はいう。
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