列車が来なくとも、「駅」は街のシンボルであり続ける:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)
京阪電鉄中之島線「なにわ橋駅」のコンコースに「アートエリアB1」という、産・学・NPOによる協創コミュニティーがある。ここで11月20日から22年2月27日に「鉄道芸術祭」が開催される。鉄道芸術祭のプレイベントで、筆者が鉄道芸術祭に参加するアーティストに向けて話した、駅の面白さを紹介する。
廃駅は「コミュニティーの拠点」に
これらの無人駅の共通点は「必ずしも鉄道利用者を想定していない」ことだ。もちろん、駅周辺のにぎわいを維持して「マイレール意識」を高め、路線存続に寄与したいという意味もある。
そして、鉄道利用者がいないまま維持される駅が生まれる。廃駅の保存活用だ。鉄道遺産を展示する記念館、バスターミナル、観光起点などに使われる。
出雲大社の近くに、JRの大社駅の駅舎が残っている。かつては出雲市駅と大社線を結ぶ大社線の終点で、大勢の参拝客が訪れた。東京や大阪から直通列車もあった。
しかし大社線は赤字ローカル線として廃止対象となり、JR西日本の発足から3年後、1990年に廃止された。国鉄の赤字路線をJRに引き継がせない、という強い力が働いていた。
大社駅舎は出雲大社をイメージした社殿づくりの荘厳な構えで知られており、駅舎は維持された。04年には国の重要文化財に指定された。
大社駅は現在も観光名所となっている。立派な木造駅舎の横に、改札係が立つラッチがズラリと並び、団体客、参拝客の多さを物語る。
私が訪れたときは観光客が少なかったけれど、地域の人々が野菜を持ち寄って市が立っていた。市といってもにぎやかなものではなく、ご近所さんが集まって憩っている風情だった。
大社駅には閉塞器などかつて鉄道で使われた備品が展示されているけれど、そこに荷物や野菜が並べられている。展示物を見たいという気持ちに加え、「ああ、こうして使われているんだなあ」と感慨深かった。
無人駅、廃駅の活用を見ると、鉄道の交通機能だけではない価値が見えてくる。地域には人々がまとまる「中心」が必要だ。かつては神社や寺が担う役目だったけれど、駅も町の中心になり得る。列車が来ない駅だとしても、そこに人々が集う限り、駅は役に立っている。
旅先で未開発の無人駅や廃駅を見ると、なんだかもったいないと思う。知恵と手間を掛けて、そこに新たな町の中心らができたらいい。新しいアイデアを試す場所として、鉄道事業者や自治体、町の有志の取り組みに期待したい。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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