「課長職を立候補制に」 SOMPOの新制度は「上司のお気に入りばかりが出世」にならないのか? 人事を直撃:選ばれなかったらどうなる?(2/3 ページ)
SOMPOホールディングスが、課長職を立候補制にするという。「立候補したのに選ばれなかったらどうなるのか」「結局、上司のお気に入りばかり出世することになるのでは?」率直な疑問を、人事担当者にぶつけた。
「月並みな回答ですが、チャレンジしたいと思っている人にチャレンジしてもらうように、各部門とコミュニケーションしながら現職者の人には別のところに手を挙げてもらうような提案をし、うまく運用をしながら後継者を育成していきたいです。恐らく、こういった新しい人事制度を導入している組織のみなさんは、同じように悩んでいらっしゃるんじゃないかという気がしています」(鈴木氏)
会社の提案が強すぎると、従来のジョブローテーションと変わらなくなってしまう。「1on1や、各部門とコミュニケーションを取るHRBPを置いてコミュニケーションもしながら、人材の流動も並行してやっていきたい」(鈴木氏)という。
キャリアは会社主導から、本人主導へ
損保ジャパン、SOMPOインターナショナルなどを傘下に持つSOMPOホールディングスが新しい人事制度を導入したのは、20年4月のこと。それまではいわゆる「総合系」と呼ばれる、会社主導のジョブローテーションを前提とする人事制度をとっていたが、従業員本人の主導でキャリアを形成するジョブ型の人事制度に切り替えた。
「まずは中途のキャリア採用で入社する社員に向けて制度を導入し、異動を前提としない形で入社してもらいました。21年4月には、対象をSOMPOホールディングスの部長層に広げ、22年4月には課長層のポストに広げることになっています。今後は管理職未満の社員にも広げていく方針です」(鈴木氏)
部長職を対象にしたときは、会社の方から適任者に打診し、本人の同意を得て切り替えていたが、来年4月に対象を課長職にも拡大するにあたっては、チャレンジしたいと思う人を立候補制で募る形になる。ポストが空いたときはもちろん、部長層においても新たに人を配置するときは立候補制になる。
「管理職も役割の1つにすぎないという考えです。従来の考え方を否定しているわけではありませんが、今までは全員が役職を目指すことを会社側が求めていたところがあります。部長も課長も、非役職者も、あくまで役割の違いであって、もしやりたいことが非役職者のポストにあるのだったら、そちらを選んでもらう方がいいというのがわれわれが考えていることです。自ら管理職というポジションをやりたいと手を挙げる自由、手を挙げない自由があると思っています」(鈴木氏)
マネジメントを担う管理職と、マネジメントはしないが専門分野で難しいミッションに挑む人をそれぞれ適切に処遇し、「管理職にいかないと出世できない、稼げない」という状況ではなくしたいとも考えている。
「ジョブ型だと報酬も仕事に応じて柔軟に設定できる。そういった方向に当社も進んでいます」(鈴木氏)
総合系からジョブ型へ移行した背景には、旧損保ジャパンと旧日本興亜損害保険という2つの損害保険会社が合併し、SOMPOホールディングスという持株会社になったことがある。元から手掛けていた損害保険のみならず、今は海外保険事業、生保事業、介護・シニア事業、ヘルスケア事業、デジタル事業とグループ会社が多様な領域で事業を広げており、「多彩な領域のそれぞれで活躍できる人材を育成していきたい」(鈴木氏)という思いがある。
社員が活躍し、価値を提供できる企業になるためには「一人ひとりが心からやりたいという思いを持った人材の集団になることが、ゴールへの近道」(三浦氏)という考えを経営レベルで認識している。
それを実現するために同社が大切にしている価値観が、「ミッション・ドリブン」「プロフェッショナリズム」「ダイバーシティ&インクルージョン」という3つの「人材コア・バリュー」だという。
「SOMPOの社員が持つ、大切にしたい価値観を3つのコア・バリューと言い、これらを共有する人材の集団を作っていこうとしています」(鈴木氏)。
ミッション・ドリブンとは、「こんなことをやりたい、実現したい」という、それぞれの人が心の中に持っている思い「Myミッション」と会社のミッションが合致し、自分自身のミッションに突き動かされて仕事をしている状態を指す。そして、それぞれの道で成果を出すことがプロフェッショナリズム。さらに、一人ひとりが違うミッションを持っていて、さまざまな領域で成果を発揮し、新たな価値創造を行っていくのがダイバーシティ&インクルージョンだ。
「われわれは損害保険を中心にやってきて、引き続き大切にやっていきますが、今は安心、安全、健康を軸に、『安心・安全・健康のテーマパーク』を具現化するという経営戦略をとっています。社員には、こんなことをやりたい、実現したいというMyミッションがあるのに、会社主導の定期異動で会社がキャリアを決めるような人事では、その実現が難しい。
Myミッションと会社のミッションが重なったときに、一番やり甲斐や生産性が高まり、高いパフォーマンスを発揮できます。自分自身が取り組みたいミッションのある仕事にチャレンジできる仕組み、機会を作っていく必要があるという考えから、今回、ジョブ型や立候補制を採用すべきだという結論にたどり着きました」(鈴木氏)
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