日本から「雑務」がなくならないのはなぜ? 震源地は“東京のど真ん中”:新連載:沢渡あまねの「脱アナログ庁」(2/4 ページ)
印刷、押印、製本、郵送、書留、FAX、出頭、PPAP、印紙、注文請書……。日本から無数の“雑務”がなくならないのはなぜなのか。その原因はどこにあるのか? 多くの企業や自治体、官公庁などで業務改善支援を行ってきた沢渡あまね氏が考察する。
はびこる雑務、“震源地”は霞が関か
筆者は、350以上の企業・自治体などで「働き方改革」「DX」「組織変革」「ダイバーシティー推進」の支援をしてきた。これらを阻害する要因はなにか?
掘りまくって最終的に行き着く先は、必ず霞が関なのである。
政府や中央省庁の仕事の流儀や組織カルチャー、税制や法制度、「生真面目かつ思考停止している」官僚や担当者の気質。これらが、日本の働き方やビジネスモデルが変わらない、DXや破壊的イノベーションを阻害する元凶であるのは間違いない。
筆者は2020年、「深夜閉庁を求める国民の会」に共同発起人の一人として名を連ねた。ワーク・ライフバランス社の代表・小室淑恵氏の呼びかけで発足した会で、霞が関の旧態依然の働き方の改善を求めるものだ。
深夜にわたる議会運営や、そのためのアナログな資料作成などの補助業務が、官僚や関係者の過酷な労働を強制する。タクシー代など多大な税金の無駄使い、国全体のデジタル政策の遅れ、民間企業の雑務や残業の増大、国家を担う人材の流出・質の低下など──霞が関が「日本のブラック労働の震源地」であることを強く指摘し、政府に改善を要求する活動である。
これまで筆者は、本当に改革したい熱意ある方々の講演依頼を除き、霞が関にはなるべく関わらないようにしていた。変えるには相手が大きすぎ、かつ闇深すぎるし、なおかつ仕事として関わろうにも報酬が話にならないくらい低い。
その割に、超煩雑でアナログな事務手続き(タダ働き)が多すぎる。賽の河原の石積みのごとし。関われば関わるほど無駄にHPとMP(体力と精神力)を消耗する。それに耐える寛容さと余力がある人でなければ、とてもでないとやっていられない。
ある意味、ボランティア活動なのだ。だったら、民間企業相手に仕事をしていた方が健康的だ。
しかし、それではやはりこの国の働き方もデジタル後進国ぶりもいつまでたっても好転しない。よって、せめてこうして声を挙げる活動をしている次第である。
霞が関ゆえのお作法や旧態依然のルールは、関わる民間企業や個人の働き方改革の邪魔をする。いくつか例を挙げよう。
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