【前編】TOMA×Sansan対談で学ぶ 迫る改正電帳法、残り1カ月で「するべきこと」「できること」とは?:対談で学ぶ電帳法とインボイス(2/4 ページ)
施行まであと1カ月となった改正電子帳簿保存法。要件が緩和され、大企業だけではなく中小企業も対応しやうい環境がようやく整ったが、実際はまだ準備が十分に進んでいないという現場も少なくないのではないだろうか? 電子取引が義務化されたことで、「うちには関係ない」とはいえない状況となった今、少ない時間でどのように準備を進めるべきなのか?
TOMA 持木:会計事務所が、「こう対応しなければいけませんよ」と提案、指導し切れていない。どちらかというと、Sansanさん含めベンダーの方が詳しかったりしますよ。なぜなら、システムのことを分かっていないと理解が進まない法律だからです。
Sansan 柴野:うーん、それはありますね(笑)。僕自身、会計監査の仕事をやってましたが、税理士や会計士さんの守備範囲は、税法や会計基準がメインですので、電帳法はこの法律の中でも細かい話なんです。
昔からずっとあるけど、「とりあえず要件が緩和される」という認識はあるものの、具体的なアンサーを提示できないことが多い。それは、持木さんが言うようにシステムに詳しくないからです。
TOMA 持木:当社には税理士が何人も所属していますが、税理士ではないシステム部門の私が電帳法対応のプロジェクトリーダーを担っているのは、そういう事情もあります。
――企業が自ら、キャッチアップして対応していくしかないと
Sansan 柴野:もちろん、システムに詳しい税理士さんが、正しい指導をされているケースもあると思います。でも、僕らが税理士さん向けにセミナーを開催しようか検討するくらいには、周知が行き届いていないのは事実ではないでしょうか。あと「対応が遅れる原因」としてはやはり、「業務フローを変更する」ことが想像以上の障壁になるんじゃないかな。
TOMA 持木:おっしゃる通りです。業務フローを変えるのは本当に大変なことです。それは大手であるほど顕著でしょう。先ほど「部署ごとで管理体制がバラバラ」と言いましたが、そこには細かな事情があるわけです。なぜこの業務フローでやっているのか、なぜ「紙」で請求書を受領しているのか。そうすると、改正電帳法に対応するための理想図を会社全体で描いたとて、それに当てはまらない部分が出てくる。
Sansan 柴野:特に義務化された電子取引において、請求書業務って今ある業務フローなので、“失敗できない”んですよね。失敗した瞬間に、「1カ月支払いできません」とか「下請法に引っかかります」とか。そういったリスクを想定した上で、全部署に適した業務フローを構築し、システムを選定し導入し――これは非常に体力のいることです。
TOMA 持木:特に「紙」で受領した請求書はやっかいです。「スキャナ保存法」にのっとってスキャンすればいいだけですが、それが非常に面倒なんですよ。スキャンという新たな工数を業務フローに組み込まないといけないし、テレワーク中なら、当然「誰がスキャンをするんだ」という話になる。
では、それを避けるため取引先に「請求書はメールでください」と言ったとしても100%は対応してもらえません。もう紙で発行するスキームができている企業も多いですから。
柴野さんが言う「請求書業務は今ある業務フロー」とはまさにその通りで、各社で既にルーチンワークが確立されている分野なんです。“授受”するものですから、自社だけの問題ではない点が悩ましいところです。
正直、電帳法ってどんなイイことあるんですか?
――スキャナ保存は義務化ではないと思うのですが、そんな苦労をしてまで電帳法に全対応するメリットは何でしょうか?
TOMA 持木:帳簿や請求書控えなど、自社で発行する帳簿書類に関しては「紙」保存する必要がないので、ペーパーレス化、業務効率化などあらゆる面でメリットがあります。今回の改正で事前申請も不要になったので、既にシステムで発行しているなら準備することなく対応できます。
スキャナ保存に関しては、確かに義務化ではありません。しかし、請求書などで紙の保存と電子の保存が両方存在することになると、管理の負担が大きい。どのみち電子取引は義務化です。ならばスキャナ保存含めて対応しようという流れですね。実際、全てを電子で一元管理できれば、内部統制上もメリットがありますから。
Sansan 柴野:電帳法に対応することで「今の業務を変えたくない」という企業の声も分かるんですよね。「複数枚の書類がある場合、2枚目を見るなら『紙』の方が早い」なんて意見もあったりして。確かに間違ってはいないんだけど、そこよりもデータ化することで確認回数を減らしたり、検索性を高めたりする方が、長い目で見ればずっと便利なわけで。
入り口は確かに面倒かもしれませんが、電帳法対応にはそこのハードルを越えるだけの価値があるんじゃないでしょうか。
TOMA 持木:中には、「うちはもう『紙』でしか請求書を受け付けないようにしよう」という企業さんもいました。つまり、今までPDFで受け取っていた請求書も「紙」でもらえば、電子取引に対応せずに済むということです。
しかし、先ほど言ったように取引先にも確立されたフローがありますし、請求書は「紙」で統一できても見積書、納品書――ほかにも国税関係書類はたくさんある。受領する際に「紙」と電子データが混在するのは、もはや避けられません。法対応という意味だけではなく、煩雑化を避けて業務効率化を図るという面で電帳法への対応にはメリットがあります。
残り1カ月で何をするべき? 「暫定対応」の中身とは
――「暫定対応」というお話がありましたが、残り1カ月で「するべきこと」「できること」は何でしょうか?
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