「解体ショー」となるリスクも? 東芝「事業分割」の経営的意義と懸念:ソニーとの差はどこでついたか(2/3 ページ)
経済界に衝撃が走った、東芝の事業分割計画。懸念すべきは、この計画が「事業分割」にとどまらず「解体ショー」に陥ってしまわないかだ。
関係の発端は、東芝は不正会計問題に端を発した経営危機脱却に向け15年に資金調達をファンドに委ねたことから、主要株主にアクティビストたちを迎え入れることになったわけです。それを、前経営陣が不当にアクティビストの思惑排除を企んだがために、同社の経営はかえって苦しい立場に追いやられてしまった、という経緯が事業分割の前提として存在しています。アクティビストが望むことは株価の上昇であり、分割計画がアクティビストの要望で入った社外取締役主導の下、コングロマリット・ディスカウント解消戦略として導かれたものである、という点は注視すべきと考えます。
過去、同じようにコングロマリット・ディスカウントをアクティビストに指摘され、一部子会社の売却を迫られた例としては、ソニーがあります。13年、ソニーのアクティビストは名門エレキ部門の低迷により株価の大幅な上昇は見込めないと考え、稼ぎ頭のエンタメ部門の分離上場を提案。さらに19年にも、これまた新たな収益部門の半導体メモリ部門の分離上場や稼ぎ頭のエンタメ部門の売却を提案していますが、いずれのケースでもソニーはアクティビストとの入念な対話を繰り返し、グループ企業であることのシナジーを強調しこれを押し切っています。そして、シナジー強化策としてソニーグループとして持株会社化を実行し、最高益の更新と現在の株価の上昇につなげているのです。
もちろん、単純に戦略的な対応策の違いをもって、一概に東芝の分割計画がダメであると申し上げるつもりはありません。ただ東芝がアクティビストとの対話不足により彼らを力づくで排除しようとしたことは事実であり、その結果としてアクティビストの思惑に沿った対応とならざるを得なかったことには、株主でなくとも一抹の不安を感じさせられるのではないでしょうか。事業分割で各事業が思ったように利益を上げられるか否かは不確定であり、アナリストからは分割後の事業規模縮小で競争力低下を懸念する声も出ています。
アクティビストとの対話関係が改善しないまま分割後の業績が振るわないならば、アクティビストからの圧力によって分割後に事業を身売りすることも考えられ、最悪の結果として「東芝解体ショー」となってしまうことも考えられなくはありません。当初、日本経済新聞による分割計画スクープを受けた株価の動きは、これに好感した上昇ではなく若干とはいえ下降傾向に動いており、やはり市場はアクティビスト先導での計画に対する先行きへの懸念が拭い去れないとの観測が主流を占めているといえるのかもしれません。
事業分割でガバナンスは強化されるのか
さて3つ目の視点である「東芝のガバナンス強化」は、個人的に最も気になる視点です。すなわちこの分割計画で「東芝のガバナンス強化」は図られるのか、ということにはどうも疑問符がつくように思えるのです。
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