「解体ショー」となるリスクも? 東芝「事業分割」の経営的意義と懸念:ソニーとの差はどこでついたか(3/3 ページ)
経済界に衝撃が走った、東芝の事業分割計画。懸念すべきは、この計画が「事業分割」にとどまらず「解体ショー」に陥ってしまわないかだ。
若干の繰り返しになりますが、事業分割に至った発端は、辞任した歴代社長をはじめとした会社ぐるみでの不正会計であり、さらにはその後も改まらぬガバナンス不全が引き起こした監督官庁を巻き込んでのアクティビスト排除であったわけです。ガバナンス不全の組織風土こそが真っ先に改められなければいけないはずが、今回の事業分割を盛り込んだ中期経営計画にそれに関する具体的な対応が盛り込まれていないというのは、経営としての反省姿勢の欠如に映るのです。
この点に関する記者の質問に、綱川智社長は「ガバナンスの問題は重く受け止めなくてはならない。ガバナンスの構築なくしてスピンオフはできない。真剣に反省し重く受け止めて終わらせるのではなく、経営陣でしっかり時間をかけてガバナンスの立て直しを進めていく」と答えてはいるものの、抽象的過ぎる回答であり、本気の取り組み姿勢を感じさせるにはあまりに“おざなり”な回答に感じられはしないでしょうか。この1年、東芝はアクティビスト対策に明け暮れたがゆえに、ガバナンス改善が明らかに置き去られているのはないかと懸念されるところなのです。
再建の最重要課題はガバナンス強化ではないか
日経新聞が事業分割案をスクープしたその前日、同紙面では15年の不正会計の時効が成立して旧経営陣の刑事責任が問われなくなったとの記事が大きく取り上げられていました。その記事では、問題を調査した東京地検特捜部関係者から「膿を出し切れなかった」と悔やむ声があがっている、と報じられています。
加えて、もう一つの不祥事であるアクティビストの提案を不当にしりぞけた20年の株主総会運営についても、これを検証してきたガバナンス強化委員会が事業分割公表と同日に「倫理的責任は免れ得ないが、法的責任は問えない」と結論づけることで、これもまた実質おとがめなしで終わっています。
これらの動きが、東芝経営陣のガバナンス強化方針を今以上に緩ませることになるとすれば、それは危機的なことであるという警鐘を鳴らす必要があります。先のガバナンス強化委員会の金築誠志委員長が東芝の企業統治体制について、「形は立派だが、魂は入っていないのではないか」と評しているように、引き続き東芝再建に向けた最重要課題はガバナンスの強化であることは間違いないのです。
ガバナンス強化が厄介であるのは、それが長い歴史を刻んできた企業の組織風土に根付いたものであるからに他なりません。経済界を揺るがす東芝の事業分割計画が本当に機能し、東芝は生まれ変われるのか。はたまたアクティビスト主導でこのまま「東芝解体ショー」に転じてしまうのかは、何よりもまず今後の同社のガバナンス再構築、すなわち組織風土改革いかんにかかっているのではないかと思っています。
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