白熱する「無人レジ競争」の行方──ショッピングカート式の勝算と課題は?:石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(4/4 ページ)
小売店のレジの無人化にはさまざまな種類がある。その中の一つが、ショッピングカートにレジ機能を搭載する形式だ。日米で広まるショッピングカート式のレジの勝算と課題とは?
大規模展開に向け、立ちはだかる課題とは?
このようにメリットが多いように感じられるAI搭載ショッピングカートですが、実際に導入したスーパーマーケットの名前を見ると、Caper AIの本社があるNYの地元スーパーが多いようです。このことから、大手スーパーがこのようなAI搭載ショッピングカートを導入することには特有の課題があると考えられます。
例えば、レジ打ち係の雇用問題です。理論上、既存のショッピングカートを全てCaper AIカートに変えてしまったら、レジ打ち係の人は必要なくなります。Caper AIカート一台の導入費用は公開されていませんが、レジ打ち係の人件費が時給15ドルと仮定した場合、諸経費を入れるとコストは一時間30ドルほど。週に20時間の勤務だと仮定すると、一人当たり月に約2400ドル(約27万円)のコストになります。
前述の「カート導入後10カ月で投資費用を回収できる」というCaper AIの計算の内訳は公開されていませんが、内訳には削減できる人件費やおすすめ商品提示などによるバスケット単価向上分の金額が含まれていることは明らかです。とはいえ、大規模チェーンが実際に導入を検討するに当たっては、前述の「レジ打ち係の雇用をどうするのか」といった社会的、道義的な問いに答えを出す必要があります。同時に、Caper AIショッピングカートの導入が経済的、戦略的に見て意味を成すものでなければならないなど、複雑な要因の存在が考えられます。その壁を乗り越えられるかどうかも、今後の大規模展開の課題の一つであるといえるでしょう。
また、ショッピングカートという比較的導入が簡単な「モノ」に決済機能をまとめたことによるリスクもあります。代表的な例が、盗難や故障です。もちろん、カートには盗難防止センサーなどがついていることが予想されますが、顧客の体験向上を考慮し、駐車場までは自由に持ち運びができるとのことです。そのため、外に出した際に故障してしまったり、盗難に遭ってしまったりするリスクも高いでしょう。AI搭載カートは一台の単価が高いため、このような盗難や故障による損失が大きい点には十分な配慮が必要です。
今後、無人レジ市場はさらに形態や技術が複雑化していくことが想像されます。無人レジを導入することで得られるメリットは顧客には大きいことが分かりますが、店舗にとっても同じくらいメリットがある必要があります。そのため、最終的には、無人レジを導入する店舗側に寄り添ったサービスとビジネスモデルを提供できる商品が残るのではないでしょうか。
著者プロフィール:石角友愛(いしずみ・ともえ)
パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。また、毎日新聞「石角友愛のシリコンバレー通信」、ITメディア「石角友愛とめぐる、米国リテール最前線」など大手メディアでの寄稿連載を多く持ち、最新のIT業界に関する情報を発信している。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
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