NEC森田社長に聞く「新卒年収1000万円施策」の効果 魅力的な職場を作ることこそマネジャーの仕事:NEC森田社長を直撃【後編】(2/2 ページ)
NECは顔認証に代表されるように世界でも有数の認証技術を持っている。加えて月や火星探査などの宇宙開発など夢のある技術開発に長年注力してきた。今後の展望を森田隆之社長に聞いた。
魅力的な職場を作るのがマネジャーの仕事
――こうした先端技術の開発のためには優秀な人材が必要です。NECでは、19年10月から新卒人材に年収1000万円を支給することもある新しい人事制度を導入しました。2年ほど経過して20人ほどに適用したそうですが、その成果は出ていますか。こうした形での人材獲得は今後も続けますか。
もちろん続けていきます。採用を含め非常に効果がありました。ただ、本制度の対象は研究者のみのため限定的です。もっと広い職種で幅広い形で採用したいと考えています。ジョブ型が進むと新卒・中途採用共に年齢に関わらずジョブによって報酬を決めることになります。これが世の中の大きな流れだと思います。
――人材の引き留め(リテンション)の観点からも適切な報酬は武器になりますね。
スカウトされること自体は、ある意味では仕方のないことです。私は、社内の人材公募制度に応募する際には、「上司に相談するな」と言っています。魅力的な職場を作ることもマネジャーの仕事であり、それにより競争力が高まるからです。
2025中期経営計画で掲げたエンゲージメントスコアを高めるには魅力ある職場を作ることが基本だと考えています。優秀な人材が去らないように魅力ある職場・仕事を作っていきたいと思います。具体的な成果は、AIや新事業開発の分野で出てきています。
――2025中期経営計画に女性の役員比率、管理職比率を20%にすると掲げていますが、今の比率はどれくらいですか。
取締役の比率は17%、管理職は7%です。取締役は母数が少なく外部からも登用できますが、管理職の目標はかなりチャレンジングと思っています。具体的な数字を定めて施策を考えていく必要があると思っています。より多くの女性に活躍してもらうことは企業の競争力を高める上で必須です。
――20%達成に向けての課題は何でしょうか。
自身が期待されていることを意識してもらうことが大事です。特別なことではないようにするには、当該社員にも何人か仲間が必要だと思います。悩みを共有できる環境を計画的に作る必要があります。
「役職が付くと休めないのでは」といった不安もあると思います。今はリモートワークが一般的になりましたが、時間ベースの労働管理が時代に合わなくなってきています。
――女性がどうしても10数年でやめてしまうという会社もあり、そうした会社では復職の仕組みを作るという話を聞いていますが。
復職の仕掛け、仕組みを作ることはもちろん大事だと思います。フリーランスが当たり前の時代なので、多様な施策を検討していく必要があります。
孫子「拙速は巧遅に勝る」
――いま森田社長が社内で最も優先的に進めたい改革は何でしょうか。
スピードアップ、そのための権限移譲です。この2つを実現するには、制度と意識の改革が必要だと考えています。意識改革の方がハードルは高いですね。意思決定、行動のスピードを上げたいと思います。
――NECグループ12万人のトップとして座右の銘、信条のようなものがあれば教えてください。
孫子の「拙速は巧遅に勝る」という言葉があります。100点を取っても期限が過ぎていれば0点と同じという意味です。50点でも構わないのでスピード感を持って取り組むことが大事です。また、コミュニケーションが非常に重要だと思っています。理解されるためには努力が必要であり、それがベクトル(方向性)を作ることになると認識しています。
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